デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する遺伝子治療――「エレビジス」の臨床的意義と安全管理体制とは
中外製薬株式会社は6月17日、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する遺伝子治療について説明会を開催しました。同説明会では、国立精神・神経医療研究センター トランスレーシナル・メディカルセンターの小牧宏文先生が特別講師として登壇。DMDの病態や、遺伝子治療用製品「エレビジス点滴静注(一般名:デランジストロゲン モキセパルボベク)」登場の臨床的意義、遺伝子治療における厳格な安全管理体制などについて解説しました。
進行性疾患DMDの病態と日本の診断状況
DMDは、筋肉の細胞膜を支える「ジストロフィン」というタンパク質が遺伝子変異によって作られなくなる疾患です。小牧先生はDMDの病態について、「筋肉が動いた時の衝撃を吸収するバネのような役割を果たしているのがジストロフィンです。このバネがないために、体を動かす刺激に耐えきれず筋細胞が壊れやすくなります」と説明しました。DMDでは、2〜4歳頃に運動発達の遅れなどがみられることが多く、これをきっかけに診断されることがあります。運動機能は5〜6歳頃にピークを迎えた後、徐々に低下していきます。
小牧先生は、「親が運動の苦手さや発達の遅れに気づいて受診しても、異常がないと言われて診断が遅れがちになることもあります」と指摘。一方、日本の診断状況については、「医療費助成等のアクセスが良いため小児科を受診する機会が多く、血液検査をきっかけに異常が見つかり、症状が現れる前の1歳頃に早期診断されるケースもあります」と解説しました。

進行抑制から原因へのアプローチへ――DMD治療の新たな展開
DMDの薬物療法には、ステロイドや一部の患者さんに適用される点滴薬(エクソンスキップ薬)などの選択肢があり、昔と比べて患者さんの生存期間も延びているといいます。一方で、これら既存の薬物療法について小牧先生は「進行を遅らせることは期待できるが、進行を止めるものではありません」と解説。そして、「原因に直接アプローチする新薬へのニーズが非常に高い状況にありました」と遺伝子治療という選択肢が増えた背景を述べました。
こうした中で登場したエレビジスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療用製品です。ジストロフィン遺伝子は非常に大きいため、機能的に重要な部分だけを残した「マイクロジストロフィン遺伝子」をAAVベクターに搭載して投与します。
エレビジスの臨床試験(EMBARK試験パート1)では、主要評価項目であるNSAA(運動機能評価スコア)において、プラセボ群に対する統計学的有意差は認められませんでした。これについて小牧先生は、「NSAAは点数付けによる評価のため、1年間という期間では微小な変化を捉えにくかった要因があるのではないかと議論されています」と見解を示しました。一方で、「床上立ち上がり時間や、実際の生活での歩行速度を示す指標などでは改善が見られました。実際の生活での活動量が上がっているということは、非常に意味のあるデータではないかと考えています」と評価しました。
厳格な安全管理体制のもとで治療を
遺伝子治療の実施にあたっては、年齢制限(3歳以上8歳未満)の厳格な適用や、投与適格性を確認するための事前遺伝学的検査など、事前の適格性確認が非常に重要になります。
米国では15歳および16歳の歩行不能な方において、投与後90日以内に急性肝不全による死亡例が報告されました。小牧先生は「15歳、16歳と今回承認になっている3歳から8歳未満とでは、だいぶ状況は違う」と述べ、「体重が多いとウイルスも増えてしまう」点や、「比較的多く脂肪肝が見られる」といったリスク要因の違いを指摘しつつも、死亡例が出たという重い事実を受け、日本でどのように安全管理を行うかが大きな課題となったと語りました。
現在日本では遺伝子治療にあたり、副作用予防のための事前ステロイド投与や、投与後3ヶ月間の頻繁な受診と血液検査による厳重なモニタリング、感染防止等に向けた約1ヶ月間の行動制限などが求められます。投与施設は全国13施設に限定され、地域の施設と連携する「ハブ・アンド・スポークモデル」が採用されています。この体制について小牧先生は、「投与後の3ヶ月間毎週通院するのは負担が大きいため、一部の管理を地域の施設にお願いするといった連携体制を取っています」と説明。さらに、各領域の専門医による「エキスパートパネル」を構築し、全症例のデータを毎週登録して助言を受ける体制を整えていることを強調しました。
最後に、「行政、企業、学会が三位一体となってこの安全管理体制を維持し、患者さんに新たな治療の選択肢を届けていきたい」と力強く語り、講演を締めくくりました。
参考
中外製薬株式会社 ニュースリリース
