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多発性嚢胞腎の腎嚢胞増大と腎機能障害、長期的な運動で抑制

東北大学は8月23日、多発性嚢胞腎モデルラットにおいて、長期的運動が運動耐容能を向上させ、腎嚢胞形成、細胞増殖、腎糸球体障害を抑制することを明らかにしたと発表しました。

この研究成果は、同大大学院医学系研究科内部障害学分野の仇嘉禾大学院生、上月正博教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学の伊藤修教授ら研究グループによるもので、米国スポーツ医学会機関誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」に7月21日付で掲載されました。

多発性囊胞腎は、遺伝子変異により両側の腎臓に多数の囊胞が発生・増大し、腎機能が低下する国の指定難病(指定難病67)で、その有病率は2,000〜4,000人に1例と推測されています。腎嚢胞の増加に伴い、60歳までに約半数が末期腎不全に至り、運動耐容能およびQOL(生活の質)が低下しやすいとされています。

多発性囊胞腎の原因は腎臓で機能している一次繊毛注 2関連タンパク遺伝子の変異であり、繊毛の機能異常が原因となって細胞内カルシウム濃度が低下し、その結果、細胞増殖を促進する因子(cAMP)が過剰に産生され、腎尿細管細胞が増殖、囊胞が増大します。現在、多発性囊胞腎の腎腫大や腎機能低下に対して有効性の示された薬剤は、腎臓における cAMP 産生を抑制するトルパブタン注 3ですが、多尿、口渇等の副作用頻度が高く、患者の QOL も低下し、治療の脱落率も高いことが問題となっています。他に、多発性囊胞腎において腎障害の進行を抑制する治療としては、降圧療法、タンパク質制限食等が考えられていますが、医学的な証拠はほとんどありません。

近年、透析治療は必要でないものの腎機能がある程度以上悪くなった状態の慢性腎臓病患者さんでは、長期的な運動による運動耐容能の改善、低栄養・炎症・動脈硬化複合症候群の改善、タンパク質異化の抑制、QOLの改善、透析導入時期の延長などの効果が明らかにされています。しかし、多発性嚢胞腎に対する長期的運動の有効性を検証した報告はこれまでなく、その効果は不明だったそうです。

今回、研究グループは、多発性囊胞腎と同様な病態を示す多発性嚢胞腎モデルラットを用い、腎嚢胞増大や腎不全進展に対する中強度長期的運動の安全性や有効性を検証。その結果、尿タンパクの減少、腎嚢胞増大、嚢胞周囲の細胞増殖、糸球体障害、腎間質線維化の抑制など、長期的運動が多発性嚢胞腎モデルラットの腎臓臓器障害を抑制することを世界で初めて明らかにしました。この機序として、長期的運動は腎臓におけるcAMP(細胞増殖を促進する因子)を増加させず、尿細管の細胞増殖を抑制することで、病態の進行を抑えていることが考えられるといいます。

画像はリリースより

この成果について、研究グループはプレスリリースにて「多発性嚢胞腎モデルラットにおいて、長期的運動が腎嚢胞や糸球体障害、腎間質線維化を抑制することを初めて明らかにしました。本研究の結果により、運動療法が多発性囊胞腎の新たな治療法として期待されます」と述べています。

出典元
東北大学 プレスリリース

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