特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)の病態に深く関与する遺伝子群PI3K-Aktシグナル伝達経路を同定
岡山大学は5月22日、特発性多中心性キャッスルマン病(iMCD)の病態に深く関与する遺伝子群としてPI3K-Aktシグナル伝達経路を同定したと発表しました。
特発性多中心性キャッスルマン病(指定難病331、iMCD)は、全身のリンパ節の腫れや発熱などの症状が現れる原因不明の疾患です。その中でもiMCD-TAFROは、血小板の減少、胸水や腹水の貯留、発熱、骨髄の線維化、腎機能障害、肝臓や脾臓などの臓器腫大といった、生命を脅かす可能性のある重い症状を伴うことが知られています。
このiMCD-TAFROは、罹患したリンパ節における血管の異常な増殖が特徴の一つとされていますが、近年まで確立された診断基準がなく、その詳しい原因や病気のメカニズムは十分に解明されていませんでした。そのため、根本的な治療法も確立されておらず、まれな疾患であることから、世界的に見ても研究が十分に進んでいないという課題がありました。
今回、研究グループは、iMCD-TAFROの病態解明と新たな治療法の開発に繋げることを目指し、患者さんの病理組織所見と遺伝子発現の解析を組み合わせる手法を用いました。その結果、iMCD-TAFROにおいて、PI3K-Aktシグナル伝達経路と呼ばれる特定の遺伝子群の働きが活発になっていることを見出しました。
このPI3K-Aktシグナル伝達経路の活性化が、血管を作り出す細胞である血管内皮細胞の増殖を促したり、血管内皮細胞同士の結合を弱めたりすることで、iMCD-TAFROに特有のリンパ節での血管増生や、胸水・腹水の貯留、全身のむくみといった症状の発生に関与していると考えられます。さらに、この遺伝子群が活性化するメカニズムには、VEGFAという炎症反応に関わるタンパク質(サイトカイン)とその受け手であるPDGFRBという受容体が関わっていることも突き止めました。
以上の研究成果より、iMCD-TAFROの病態に関わる重要な遺伝子群が同定されました。この成果が新しい治療法の開発に大きく貢献すると期待されます。また、この発見が国内外の研究者の間で広く共有され、さらなる研究が進むことで、病気のより詳細なメカニズムの解明や、より効果的な治療法の確立に繋がることが期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、「Modern Pathology」オンライン版に4月23日付で掲載されました。