ヒトの腸の免疫センサーはマウスと異なる仕組みと判明、ミニ腸を用いた細胞モデル開発に成功
国立成育医療研究センターは8月4日、ヒトES細胞・iPS細胞から作製した多細胞型機能性腸管オルガノイド(「ミニ腸」)を用いて、世界で初めてヒト腸管タフト細胞を多能性幹細胞から安定して誘導・解析できるモデルの構築に成功したと発表しました。
腸管タフト細胞は、腸にわずか1%以下しか存在しない稀少な細胞で、寄生虫や代謝物などの刺激を検知して免疫応答を開始する腸の免疫センサーとしての役割を担っています。これまでの研究はほとんどがマウスに依存しており、人間の腸管タフト細胞がどのように働くのかは長年の未解決課題でした。
今回の研究では、ヒトES細胞およびiPS細胞から作製した多細胞型機能性腸管オルガノイド(ミニ腸)を用いて、腸管内にごく少数しか存在しないヒト腸管タフト細胞を安定して分化誘導し、その性質を詳細に解析できる研究モデルを初めて構築しました。その結果、ヒトのタフト細胞はマウスとは全く異なる免疫回路で働くことが明らかになりました。具体的には、マウスでは免疫活性化物質であるサイトカインのIL-25をタフト細胞が大量に分泌しますが、ヒトではほとんど産生しないことが分かりました。また、腸管タフト細胞のマーカーとなる遺伝子について、ヒトではDCLK2が主要マーカーであり、マウスのDCLK1とは異なることも判明しました。さらに、マウスで知られている細胞が骨形成タンパク質の働きを調節する仕組みであるBMPフィードバックも、ヒトでは働かないことが示されました。

さらに、ヒトのタフト細胞を誘導する条件を検討した結果、マウスで誘導に用いられるサイトカインだけではヒトのタフト細胞は十分に増加せず、細胞の成長や変化をコントロールする伝達の仕組みを薬や遺伝子の力で止めるNotchシグナル阻害剤を併用することで初めて強力に誘導できることが分かりました。

以上の研究成果は、ヒトの腸管粘膜免疫を正確に理解するための新たな研究基盤となります。炎症性腸疾患やアレルギー疾患、寄生虫感染症などの病態解明、およびマウス細胞に代わる新たな細胞治療や創薬の評価などへの応用につながることが期待されます。
なお、同研究の成果は、米国消化器病学会が発行する国際誌「Gastro Hep Advances」に掲載されました。
