iPS細胞を用いた再生医療における移植モデルの開発に成功
北海道大学遺伝子病制御研究所らの研究グループは、iPS細胞を活用した皮膚移植時のモデルマウスの開発に成功したと発表しました。iPS細胞は様々な種類の細胞へ分化できるため、再生医療の現場で臓器移植などへの応用が期待されています。今回開発に成功した移植モデルマウスの解析により、皮膚移植片に生じている変化や拒絶反応を引き起こしている抗体が調査されました。さらに、移植片の拒絶を防ぐ方法も検討されました。
背景-再生医療の分野で注目されるiPS細胞
iPS細胞は2006年した人工多能性幹細胞です。様々な組織や臓器の細胞に分化する能力を持ち、ほぼ無限に増殖する性質があります。iPS細胞の登場により、治療効果の高い細胞をiPS細胞から作成し移植する治療法が再生医療の分野で注目され始めました。しかし、自身の細胞からiPS細胞を誘導し目的の移植片を作製すると多大な時間が必要なため、実際の臨床現場では事前に作成してある他人由来のiPS細胞を利用する計画が立てられます。他人由来の細胞は、自分の免疫細胞の働きにより拒絶反応が起こり、移植片が脱落する危険があります。拒絶反応のリスクを減らすために、移植するiPS細胞と、移植を受ける患者のMHC型を一致させる必要があります。しかしこれまでに、MHC型が一致していても拒絶反応を起こし得る因子がいくつか見つかっており、MHC型の一致しているiPS細胞を移植する過程においてどのように拒絶反応が起こるかは明らかになっていませんでした。
結果と展望-移植後の拒絶反応を引き起こす過程を観察
移植において細胞を提供する側をドナー、ドナーから移植を受ける側をレシピエントと呼びます。実験に用いたマウスは実際の移植手術を受けるヒトを想定し、それに近い遺伝的背景を持つ系統が選ばれました。ドナーの皮膚をレシピエントに移植し、移植片がどの程度の期間脱落せずに生存できるかを測定しました。実験結果より、MHC型が一致していても、マイナー抗原が不一致の場合には移植片が拒絶されることが明らかになりました。さらに、ドナーとレシピエントの組み合わせ次第では、MHC型がまったく一致しない場合と同程度のスピードで移植片が拒絶される例もありました。また、ドナーとレシピエントの組み合わせによって、免疫抑制剤を用いることで拒絶反応を抑制できる組み合わせも見つかりました。また一方で、免疫抑制剤を用いても拒絶反応を抑制できない組み合わせがあることも明らかになりました。マウスを利用した本研究は、ヒトでのiPS細胞移植のモデルとしての活用が期待されます。今後はこのモデルを活用することで、さらに適切なiPS細胞移植方法の探索が進むと期待されます。