肥大型心筋症の重症化に関わる新たなリスク因子を同定、個別化医療・精密医療の実現に繋がる可能性
東京大学の研究グループは9月26日、国内多施設におけるの肥大型心筋症患者さんの遺伝子解析を行い、重症化に関わる新たなリスク因子を同定したと発表しました。
肥大型心筋症(指定難病58)は、心臓の一部が肥大することにより、不整脈による突然死・脳梗塞・心臓のポンプ機能の低下による末期心不全への進行などが現れる疾患です。家族歴を有する方が多いことが特徴で、一般人口の約500人に1人と、最も頻度が高い遺伝性心疾患です。
心筋を構成する最小単位であるサルコメアを設計する遺伝子の変異が主な原因ですが、それ以外に、心臓のさまざまな構造や機能に関連した遺伝子にも変異を認めることがあります。その中には、拡張型心筋症や不整脈原性右室心筋症など、他の心筋症の原因となる遺伝子変異も含まれます。
今回、研究グループは、サルコメア遺伝子だけでなく、さまざまな心筋症に関連した遺伝子を網羅的に解析し、肥大型心筋症の病態形成に関わる遺伝的基盤を調査。国内多施設で登録された378名の肥大型心筋症患者さんの血液からDNAを抽出し、サルコメア遺伝子を含む約80種類の心筋症関連遺伝子を解析しました。
その結果、サルコメア遺伝子変異を有していたのは139名の患者さんで、うち11 名は拡張型心筋症や不整脈原性右室心筋症など、他の心筋症に関連した遺伝子変異を有していました。これらの患者さんは、心臓のポンプ機能が低下しやすく、あらゆる治療が効きにくい末期心不全状態である「拡張相肥大型心筋症」へと進行しやすいことがわかりました。さらに、心移植や補助人工心臓植込術の施行率が高いことや、心不全が原因で死亡する危険性が高まることもわかりました。
以上の研究成果より、他の心筋症関連遺伝子変異は、サルコメア遺伝子変異と併存することで相加相乗効果を発揮し、肥大型心筋症を重症化させることが明らかとなりました。肥大型心筋症の多様性に富む病態形成の機序を解明するために、サルコメア遺伝子のみでなく、心血管疾患に関わる遺伝子を網羅的に解析することの有用性が示されました。今後、肥大型心筋症の遺伝的基盤が明らかになることで、個別化医療・精密医療の実現に繋がることが期待されるといいます。