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遺伝性血管性浮腫(HAE)治療は「新たなステージへ」~CSLベーリングがメディアセミナーを開催~

CSLベーリング株式会社は4月18日、遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の発症抑制を効能・効果として、ヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体「アナエブリ皮下注200mgペン(一般名:ガラダシマブ(遺伝子組換え))」を発売しました。同日、同社はメディアセミナーを開催。広島市立病院機構理事長の秀道広先生が講演しました。

遺伝性血管性浮腫(HAE)は、主にC1インヒビター(C1インアクチベーター)という物質のはたらきが低下することが原因の遺伝性疾患。HAEの患者さんでは、身体のさまざまな場所に腫れが起き、くちびる、まぶた、舌など顔、手足などの目に見える場所だけではなく、のどや腸などの目に見えない場所にも発生します。また、腫れる場所はいつも同じとは限らず、のどが腫れた場合、気道がふさがれた場合、呼吸が困難になり、命に関わることもある疾患です。

広島市立病院機構 理事長 秀 道広 先生

過去の調査では、日本人HAE患者さんの平均発症年齢は18歳、医療機関を受診するまでに5.7年という結果が出ています。秀先生は「医療機関に行ってもすぐには診断がつかないため、最終的に診断がつくまでには、さらに何年もかかっている人が多いです」と語ります。腹痛は腸閉塞、喉頭の浮腫はアレルギーなどと間違われやすく、患者さんは診断がつくまでに複数の診療科を長年にわたり受診するケースが多く報告されているそうです。

また、「多くの場合は自然に(症状が)消えるため、患者さん、あるいはドクターも原因が分からなくても『治ったからいいか』と考えてしまいます」と秀先生。HAEはさまざまな臓器に症状が起ることから、その診断について秀先生は「大切なことはまず HAEの可能性に気づくこと」が重要だと語りました。

HAEの症状は、アレルギー性の蕁麻疹(じんましん)とは異なり、主に「ブラジキニン」という物質が過剰に産生されることで引き起こされます。通常、ブラジキニンの産生は、血液中のC1インヒビターというタンパク質によって制御されています。しかし、HAE1型または2型とされる患者さんは、遺伝的にこのC1インヒビターが不足しているか、機能が低下しているため、ブラジキニンが過剰に産生されやすい状態にあります。

HAEなどブラジキニンによって起きる血管性浮腫には、このブラジキニン、あるいはこのブラジキニンを作る過程に対するさまざまなお薬があります。「ブラジキニンがレセプターに働くところを直接止めるレセプター拮抗薬(イカチバント)、その上流にあるカリクレインを止める薬(ラナデルマブ、ベロトラルスタット)、HAE患者さんの体内で不足しているC1-インヒビターを補充するC1-インヒビター製剤(ベリナート)、さらにその上流にある活性化第XII因子を抗体でブロックするのが、今回の承認されたお薬(ガラダシマブ)の仕組みです」(秀先生)

こうした薬剤の登場によってHAEの治療は、発作が出現した後に治療を行う「発作治療」、歯科治療など発作リスクが高い場面の前に治療を行う「短期発作発症抑制治療」、より長期間の発作抑制を狙う「長期発作発症抑制治療」という3つのタイミングで複数の治療薬が選択可能となっており、秀先生は「日本の HAE 治療は新たなステージに入ってきています」と語ります。

一方、いつ起こるかわからない発作への不安や人前で症状が出ることへの恐怖心などは、発作の頻度が減ってもあまり変わらないというデータも。「発作が少ないからといって、いわゆる QOL(生活の質) が高いとは限らないし、個人差も大きい。具体的な治療は、患者さんそれぞれの症状の状況を把握しながら、ドクターと患者さんが決めていく必要があります」(秀先生)

最後に秀先生は「治療の恩恵から漏れる人が一人でも少なくなるように、コンソーシアム(遺伝性血管性浮腫診断コンソーシアム)なども作られており、患者さん、医療者、製薬企業などが協力して、疾患啓発や学術的な活動などが広く行われています。一般の方々への(HAEの)周知と、さまざまな支援がさらに集まることに期待したい」と希望を語り、講演を締めくくりました。

秀先生に聞く、HAE Q&A

ご講演後、秀先生に個別インタビューのお時間を頂戴しました。以下、Q&A方式でその模様をお伝えします。

Q:レアズ編集部
A:秀先生

Q1: 2017年頃からHAEの治療薬は増えましたが、それに伴って患者さんの診断率は改善しましたか?また、現在の推定患者数はどのくらいですか?
A:改善しているとは思いますが、まだ推定される患者数よりはるかに少ないのが現状です。正確な数を把握するためコンソーシアムで調査を行っていますが、信頼性の高い数字はまだ出ていません。2016年頃にCSLベーリングが調査した際は430人ほどというデータがありましたが、それ以降の公式な発表はありません。

Q2: HAEには1型、2型、3型*がありますが、日本における3型の患者さんの割合はどのくらいですか?
A: 欧米のデータでは、1型・2型が約5万人に1人なのに対し、3型は数十万人に1人と非常に稀です。しかし、日本では3型と診断される患者さんが比較的多いように見受けられます。これが本当にHAE 3型なのか、あるいはHAEではない他の疾患なのかについては、まだ議論があり、正確なデータやコンセンサスは得られていないのが現状です。

*HAE3型とは:HAE3型は、C1インヒビターの遺伝子には変化がなく、C1インヒビターの産生量や機能も正常で、非常にまれなタイプです。C1インヒビター以外の原因で生じます。原因となる遺伝子の変化がいくつか見つかってきていますが、原因がわからない場合が多く、詳しいことはまだ不明です。女性に多く発症します。 出典:HAEライフ

Q3: 家族歴がないのにHAEを発症する(孤発例)患者さんの割合はどのくらいありますか?
A: HAE患者さんの約20~25%は、家族歴のない孤発例とされています。これは比較的高い割合であり、そのため診断に至るまでに時間がかかってしまうケースも考えられます。

Q4: 遺伝性疾患であるHAEですが、親に症状がない場合でも子どもが発症することはありますか? 検査はどの範囲で考えるべきですか?
A: 理論上は50%の確率で遺伝しますが、HAEの遺伝子の変化を持っていても症状が出ない(無症候性)人もいます。そのため、両親に症状がなくても、祖父母や他の親族(おじ、おば、いとこなど)に症状がある場合や、親自身が無症候性キャリアである可能性も考えられます。
ですので、子どもがHAEと診断された場合でも、必ずしもその子が初めての症例(孤発例)とは限らず、親が無症候性の可能性もあるため、症状の有無に関わらず、広めに家族・親戚で検査を受けることを検討すべきと考えます。

Q5: HAE患者さんは発作を予防するために、日常生活でどのようなことに気をつければよいですか?
A: 発作を確実に防ぐために確立された生活上の注意点というものはありません。ストレスや疲労が関係している可能性はありますが、それを明確に示すデータはありません。一般的な健康的な生活(規則正しい生活、疲労やストレスを避けるなど)が良い可能性はありますが、HAEだからといって過度に努力目標を設定するよりも、発作が起きた時に適切に対処できるよう、治療薬などを準備しておくことの方が重要だと考えられています。

Q6: 長期的な発作発症抑制治療薬を使用していても、手術や抜歯などの侵襲性の高い治療を行う前には、追加で短期的な発作発症抑制治療薬の投与は必要ですか?
A: 一律の決まりはありません。患者さんのコントロール状態によって判断します。長期発作発症抑制治療薬を使用していても時々発作が起きる(コントロールが不十分な)患者さんであれば、短期予防を行うことが多いです。一方で、長期発作発症抑制治療薬によって何ヶ月も発作が起きていない(コントロールが良好な)患者さんであれば、通常は追加の短期発作発症抑制治療薬は行わず、万が一発作が起きた場合に備えておく、という対応になることが多いです。

Q7: 長期発作発症抑制治療薬を使用していても発作が起きることがあるとのことですが、その場合、発作の重症度は軽くなる傾向にありますか?
A: はい、長期発作発症抑制治療薬で良好にコントロールされている患者さんの場合、たとえ発作(ブレークスルー発作)が起きても、症状は軽くなる傾向があります。

Q8: 長期発作発症抑制治療薬はすべての人に必要なのでしょうか?
A: HAEの治療目標は、発作が起きにくく、起きても軽い状態を目指すことです。その目標達成のために長期発作発症抑制治療薬が必要かどうかを個別に判断します。中には、長期発作発症抑制治療薬を使わなくても年に1回程度しか発作が起きないような、もともとコントロールが良好な患者さんもいます。そのような方は必ずしも長期発作発症抑制治療薬は必要ないかもしれません。ただし、症状の頻度や重症度には個人差が非常に大きく、普段軽症でも突然重篤な発作が起こる可能性もあるため、発作が起きた時のための準備(オンデマンド治療薬の携帯など)は、全ての患者さんにとって重要です。

Q9:最後に、レアズ読者のみなさんにメッセージをお願いします。
A: HAEは、診断されることが必ず患者さんのメリットになります。残念ながら他の希少疾患の中には、診断がついても有効な治療法がない場合もありますが、HAEは違います。診断を恐れる方もいるかもしれませんが、診断されてもされなくても病気は存在します。診断されずに重篤な発作で亡くなる例もありますが、診断されていれば死亡率は低くなります。日本はHAEの治療環境に恵まれており、良い治療薬が次々と登場し、普通の社会生活を送ることも可能です。疑わしい症状があれば、一人でも、そして一日でも早く正しい診断を受け、適切な治療を開始してほしいと強く願っています。

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