指定難病等予防に希望が持てる時代が到来しました
本記事は 皮膚科学疫学研究所代表 医学博士 粟屋 昭 様より寄稿頂き、原文のママ掲載しております。
中学校の保健体育の教科書に来春から「がんの予防」が新たな単元となるという。新学習指導要領は適切な生活習慣を身につけることなどが有効として生徒の理解を求める。現行本はがんを生活習慣病の1つとして取り上げているが、各社とも、国立がん研究センターがん予防・検診研究センターがまとめた、新12カ条を資料として掲載するなどして、新たに「がんの予防」の単元を設けたとのことである。
この新聞記事を見て、がんだけを特別視するのは片手落ちのような気がしたのは筆者だけではないように思う。というのは2016年のがん罹患者合計は101万人、潰瘍性大腸炎(UC)・クローン病(CD)やパーキンソン病(PD)や全身性エリテマト-デス(SLE)等指定難病罹患者の合計は2016年度98万6千余人であって、両者の患者数に大差がないことは注目されてこなかった。指定難病は多くの希少難病を含めて、現在333種の疾患が特定疾患として認定登録されており、先天性遺伝疾患とされている疾患も一部にあるが、多くはがん同様に原因不明の疾患とされてきており、指定難病についても予防の可能性を専門家の議論の俎上に乗せてもらうべく、原因究明と治療の現状を、がん同様に多くの国民に認知されるようにしてゆく努力が望まれる。
2003年から筆者は乳幼児の川崎病は花粉被曝が引き金であろうことの報告を始め、2018年からは同じく血管炎症候群の高安病(TAK)はじめ指定難病40疾患も同様に、更に1年前からはがん・悪性腫瘍24種も同じく、1978-79年から始まり86年まで続くスギ等花粉飛散数の増大期間に、膠原病等自己免疫疾患や炎症性腸疾患(IBD)や神経難病 、筋肉系難病、骨難病 等の前年比増加罹患数の急増の最初のpeakが、1984年、85年に同時多発で現れることを見出した。そして1990年前後からも引き続き、花粉数の増加に連動して、花粉数のpeak年や1-2年遅延年に、各難病の新規患者数が2014年まで、右肩上がりに同時に周期的に、これら65疾患で増加してゆく疫学的事実を確認し、報告を続けてまいりました。
筆者は公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターの厚生労働省registryの1974年から40年間の指定難病罹患数dataと相模原市及び東京都の同期間の年間花粉数の間の同年比較から20年ズラしまでの相関解析を行ったところ、強皮症、皮膚筋炎/多発筋炎(DM/PM)、多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発性動脈炎、間質性肺炎では発症同年の花粉数と、相関が有意に見られること、また高安病、悪性関節リウマチ、強皮症、DM/PM、天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、重症急性膵炎では発症6年前の飛散花粉数と有意な相関が見られることを、横浜市立大学名誉教授 脳神経内科専門医の黒岩義之先生と共著で、2019年12月初め、指定難病論文第2報で報告した(第1報は2018年12月、単独報告した)。
これら知見は、人々の生命活動に多大な益をもたらし、衣食住に必須な存在である植物界由来成分の、花粉が玉にきずながら、ヒトを含めて動物界の病気発症の最初の引き金役もしているらしいことを示すものです。UC、CDやSLEなどの多数の難病やがんが、花粉惹起(誘導)疾患、即ち花粉病の可能性があるというこの疫学的事実は、まだ国民多くの知識にはなっていませんが、多くの難病が何らかの仮想の環境因子の刺激を受けて自己免疫的に疾患を発症するとの従来の推定に対して、斯界に一石を投じる新たな知見・概念であります。従来ノーマークであった、万人が等しく年間4か月程浴びている花粉が、難病やがんの要因であろうと、具体的な環境因子として明確に指摘されたことは、乳幼児期から花粉避けの生活習慣を励行してゆけば、川崎病ばかりか様々な、小児期や思春期の難病や、成人の難病の発症を遅らせたり予防ができるかもという希望を我々に与えてくれます。
日本では花粉症が同年代の1978年以来平行して患者数が増加し続けており、予防のためマスク着用の習慣が確立してきましたが、コロナ禍、更にゴーグルやフェイスシールド着用が一般化した今日、毎年、春の大量花粉飛散時期と10月中心のスギ花粉の僅かな先駆け飛散時期に、花粉防護の生活習慣(空気清浄機の設置を含め)を実践してゆこうという、難病やがん・悪性腫瘍の、新たな発症予防策を国民が励行してゆけば、多くの疾患の罹患数が減少してゆく可能性があり、いずれ教科書記述も変わっていくものと考えております。 既に難病に罹患されている患者さんにおいては、花粉被曝を極力避ける生活様式の実践で、症状の季節的悪化とか再発が少なくなったという実感を持たれることになればと、筆者は期待したく存じております。
参考資料
「医薬品の基礎研究および臨床研究における、花粉被曝の影響を考慮した試験・評価方法の構築への提言」
「花粉回避生活で川崎病予防 再発例・同胞例減少が判定指標。」
「薬剤効果季節変動の検証を。」
「Suppressive influence of seasonal influenza epidemic on Kawasaki disease onset」