重症先天性心疾患の一つである総動脈幹症の主要な原因遺伝子を発見
東北大学は2月28日、宮城県立こども病院、山形大学との共同研究により、重症先天性心疾患のひとつである総動脈幹症の日本人患者集団の遺伝子を解析することで、膜タンパクTMEM260の遺伝子変異のひとつであるc.1617delが、日本人総動脈幹症の新たな主要原因であることを突き止めたと発表しました。
先天性心疾患は、出生100人につき1人が罹患しているといわれています。その中でも、重症先天性心疾患は乳児期にカテーテルや手術といった侵襲的な検査や治療を必要とし、命を落とすこともありますが、その原因の多くは解明されていません。
重症先天性心疾患全体の4%を占める総動脈幹症は、動脈幹が肺動脈と大動脈に正常分離せず、両心室から一本の共通血管が起始する心疾患です。総動脈幹症の最大の原因としては、22q11.2欠失症候群が挙げられ、総動脈幹症の12〜35%を占めると言われていますが、それ以外の主要な原因はこれまでに報告されていませんでした。一方で、近年は遺伝学的検査の発展とともに疾患の新たな遺伝的原因が究明されています。
今回、研究グループは、22q11.2欠失を認めなかった日本人総動脈幹症患者さん11人を対象に全ゲノム解析を行いました。
その結果、膜タンパクTMEM260の遺伝子変異のひとつであるc.1617delのホモ接合性変異が3人、複合ヘテロ接合性変異が2人、その他の遺伝子異常(GATA6、NOTCH1)が2人見つかりました。今回、検査をおこなった11人の患者さんのうち7人に、総動脈幹症の原因となる遺伝子変異が見つかり、日本人総動脈幹症患者さんにおける遺伝学的検査の重要性が明らかになりました。
そこで、東北大学東北メディカルメガバンク機構は、日本人一般住人集団54,302人の遺伝子解析を行いました。その結果、日本人の約0.7%がTMEM260遺伝子のc.1617del変異の保因者であることが明らかになりました。このことから、計算上、ホモ接合性変異の患者さんだけで日本人総動脈幹症患者さんの約26%を占めることがわかりました。さらに、複合ヘテロ接合性変異の患者さんを加えると、TMEM260変異が原因の日本人総動脈幹症患者さんの割合はさらに増えると考えられます。この結果により、従来考えられていた日本人総動脈幹症の原因の割合を大きく変え、TMEM260変異が最大もしくは2番目の大きな発症原因であることを示唆しました。
これまでの報告ではTMEM260変異による総動脈幹症の患者さんは腎不全等の合併症により予後不良と考えられていましたが、今回の研究では腎不全を合併していない患者さんが多くいました。また、世界初の報告となる成人患者さんは大きな合併症もなく生活していました。このことから、TMEM260変異による総動脈幹症患者さんの合併症の程度や重症度が、これまでの報告より多様である可能性が示されました。
以上の研究成果より、日本人総動脈幹症患者さんの遺伝学的検査の重要性が明らかになりました。また、今後症例が蓄積し、TMEM260変異関連の総動脈幹症の合併症の頻度が明らかになれば、治療法開発や病態解明に繋がることが期待できるといいます。さらに、総動脈幹症の患者さんに本変異が判明した場合、十分な遺伝カウンセリングを受けることで、次子が総動脈幹症になる可能性を予測することができます。
東北大学は今後の展望について「今後はTMEM260の機能を明らかにすることで、治療へ応用できる可能性や、他の重症先天性心疾患でも同様の高頻度遺伝子変異が存在する可能性もあり、今後の研究の進展が期待されます」と述べています。
なお、同研究の成果は、遺伝学分野の学術誌『Journal of Human Genetics』に2月13日付で掲載されました。