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ミトコンドリア病の発症を引き起こす新たなリピート配列の異常伸長を発見

理化学研究所らの共同研究グループは10月25日、ミトコンドリア病を引き起こす、新たなリピート配列(GGGCCの塩基の繰り返し配列)の異常伸長を発見したと発表しました。

ミトコンドリア病(指定難病21)は、ミトコンドリアに障害が起きることにより、筋肉や脳・心臓を中心に全身のあらゆる臓器に症状が現れる疾患です。根本的治療方法が無く、5,000人の出生に1人という、比較的頻度の高い遺伝性疾患群です。また、未診断率は6~7割にも達し、現行の遺伝子解析技術を用いても、診断できない患者さんが多くいることが課題です。

これまで425個以上の遺伝子(細胞核にあるゲノムまたは、ミトコンドリア内にあるミトコンドリアゲノムに位置する)の異常によりミトコンドリア病を引き起こし得るとされてきました。その多くは一塩基のバリアントや短い挿入・欠失をもたらすバリアント、あるいはまれに構造多型と呼ばれるバリアントであることがわかっています。また、リピート配列の異常伸長によるヒトの疾患(リピート病)は全てを合わせるとこれまで50余りが報告されており、多くは神経に障害を呈することがわかっています。これらのリピート病では数百塩基から数千塩基にも及ぶ長い繰り返し配列が患者検体に見られますが、それを正確に解析するには特別な遺伝子解析装置であるロングリードシーケンサーが有効であるといわれています。

今回、研究グループは、2,932人の未診断ミトコンドリア病患者さんの国内コホートにおいて、それぞれの患者さんで病気の原因となる遺伝子変化を突き止める研究をおこないました。その過程で、患者由来の皮膚線維芽細胞から抽出したRNAの配列を読み取り、かつRNA量を評価する技術(RNAシーケンシング)で解析したデータについて、集団の中でも際立って異常な遺伝子発現をしている個体を検出する「OUTRIDER」というプログラムを用いて、2,932人のうちの400人について評価。その結果、1症例でNAD(P)HX epimerase(NAXE)と呼ばれる遺伝子の発現が著しく低下していることを発見しました。また、NAXE遺伝子の産物であるNAXEタンパク質の量も顕著に減少していました。

次に、長い配列を一気に読み取ることができるロングリードシーケンサーを用いてゲノム配列を解析。その結果、この症例の患者さんではNAXE遺伝子のプロモーター領域と呼ばれる転写の開始を制御する配列の中に、GGGCCの5塩基の繰り返し単位が正常では3~5回の繰り返しをしているところが、この症例では約200回も繰り返し、異常伸長していることがわかりました。

さらに、新しく転写されて合成されたばかりのRNA(新生RNA鎖)を検出する理研が開発した技術(NET-CAGE:Native Elongating Transcript-Cap Analysis of Gene Expression)を用いて解析。その結果、異常伸長しているNAXE遺伝子では転写される活性が著しく低下していました。このことから、プロモーター領域に存在するリピート配列の異常伸長により、NAXE遺伝子の転写が抑制されている状態であることが推定されました。

以上の研究成果より、GGGCCのリピートの異常伸長が、NAXE遺伝子のプロモーター領域において、CpGメチル化の亢進を伴い遺伝子の発現を抑制していることがわかりました。それによりNAXE遺伝子の産物(RNAとタンパク質)が著しく減少し、NAXE遺伝子の機能が喪失した状態になることで、ミトコンドリア機能障害が生じ、NAXE関連脳症を引き起こしていると考えられます。複数の先端的な遺伝子解析技術を組み合わせることで、ミトコンドリア病の一種の原因となる遺伝子変化を同定し、これまで診断困難であった患者さんを分子診断が成功したことにより、今後、未診断症例の診断を推進できることが期待されるといいます。

画像はリリースより

なお、同研究の成果は、「npj Genomic Medicine」オンライン版に10月25日付で掲載されました。

出典
理化学研究所 プレスリリース

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