遺伝性ジストニアDYT-KMT2B患者さんの口腔粘膜でH3K4me3が有意に低下、新たな非侵襲的診断ツールとして期待
東北大学は6月11日、東京都立神経病院との共同研究により、遺伝性ジストニア DYT-KMT2B患者さんおよびコントロール(対照群)由来の口腔粘膜サンプルを用いて、H3K4me3というマーカーが患者群で有意に低下していることを突き止めたと発表しました。
遺伝性ジストニアDYT-KMT2Bは、KMT2Bの遺伝子異常によって主に小児期に下肢のジストニアとして発症する疾患。発症早期に適切な介入を行うことにより、歩行能を含めた運動機能の予後は改善するため、早期診断が重要です。しかし、診断には、全エクソーム解析やメチル化DNA解析などの遺伝子解析を要することから、早期診断が簡単ではないという課題があります。
KMT2Bはハプロ不全遺伝子であり、これまでに報告されてきた多くの遺伝子変異がKMT2Bタンパクの機能不全をもたらしていると考えられています。メチル転移酵素のKMT2Bの代表的な基質は、ヒストンH3です。具体的にはH3の4位のリジン残基(K4)に3つのメチル基を付加(トリメチル化:me3)することによって、H3K4me3を形成します。
H3K4me3は遺伝子発現制御において非常に重要なヒストン修飾となり、エピゲノム機構の中核となります。H3K4me3の低下は、その下流において標的となる遺伝子の発現が抑制されていることを意味します。6種のH3K4のメチル転移酵素が存在し、H3K4me3 がどのメチル転移酵素を主として用いているかは、細胞種によって異なります。
今回、研究グループは、インフォマティクス解析でH3K4me3に対してKMT2Bへの依存度が高い細胞を検索した結果、口腔粘膜を構成する細胞がこの条件に該当することがわかりました。次に、DYT-KMT2B12例とコントロール12例において口腔粘膜由来サンプルを用いてH3K4me3を検討したところ、DYTKMT2B群では有意に低下していました。これらの結果は、ジストニア発症からの期間が短いほど顕著であり、発症早期での疾患群選択性により優れていることを明らかにしました。
以上の研究成果より、臨床的にジストニアを主な症状とした疾患であることがわかった場合、これまでは診断のために次世代シーケンサーを用いた検索が必要でしたが、今後は口腔粘膜によるスクリーニングによって診断できる可能性があることがわかりました。遺伝性ジストニアでみられる遺伝子の差異が個性の範疇なのか、それとも疾患に結びつくのかの判定をすることは難しいですが、将来的に、口腔粘膜を用いた検査が意義付け不明のバリアント(Variant of Unknown Significance:VUS)判定する根拠のひとつとなる可能性があります。
東北大学はプレスリリースにて、「今後、より判定の精度を高めるためH3K4me3に付随して変化しうる他のヒストン修飾を組み合わせて検討を重ねていく予定としています」と述べています。
なお、同研究の成果は、医学専門誌「Parkinsonism &Related Disorders」オンライン版に2024年5月27日付で掲載されました。