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特発性炎症性筋疾患におけるPD-1+CD8+T細胞と筋線維のPD-L1を介した免疫の攻防を解明

東京医科歯科大学は11月8日、特発性炎症性筋疾患において、PD-1+CD8+T細胞は機能的に活性化し、筋傷害に関与するサブセットであり、それに対して筋線維はPD-L1を使って対抗していることを明らかにしたと発表しました。

特発性炎症性筋疾患(IIM)は、筋肉に炎症を生じる原因不明の自己免疫疾患で、皮膚筋炎、多発性筋炎、封入体筋炎、悪性腫瘍に伴う筋炎、免疫介在性壊死性筋炎などの疾患を含みます。現在の主な治療法として、副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制薬が用いられていますが、さまざまな細胞に作用するため、多彩な副作用が知られています。また、現在の治療法で良くならない患者さんもいますが、特発性炎症性筋疾患(IIM)の病態に関与する細胞を発見することで、より効果的な治療の開発が期待できます。

PD-1は主に活性化したT細胞の細胞表面上に発現します。PD-1を発現したT細胞(PD-1+T細胞)はPD-1のリガンドであるPD-L1と結合すると、T細胞内に活性化を抑制する信号が伝わり、攻撃する機能を失っていきます。特発性炎症性筋疾患(IIM)患者さんの筋組織ではPD-1+細胞の浸潤と筋線維のPD-L1発現が見られ、PD-1+細胞が筋肉を攻撃し、筋線維がPD-L1という武器で対抗しているように見えます。

特発性炎症性筋疾患(IIM)では、T細胞が自己の筋を誤って敵と認識して、慢性的に攻撃している状況であると考えられ、PD-1+CD8+T細胞は疲弊し、攻撃する機能を喪失しうると考えられます。つまり、特発性炎症性筋疾患(IIM)において、PD-1+CD8+細胞が筋傷害に寄与するサブセットなのか、あるいは疲弊しているのかはいまだ不明です。

今回、研究グループは、特発性炎症性筋疾患(IIM)の患者さんの末梢血でPD-1、CD8+T細胞が疲弊する過程に重要なTOXという分子、それらが発現すると発現量が低下し攻撃能を低下させる細胞溶解分子の発現を解析しました。

その結果、活動期には非活動期と比較して、PD-1+CD8+T細胞はパーフォリンやグランザイムBといった細胞溶解分子を高発現し、大部分のPD-1+CD8+T細胞は活性化した状態を維持していることがわかりました。一方でPD-1を発現していないCD8+T細胞では細胞溶解分子の発現率は活動期と非活動期の間に差を認めませんでした。

画像がリリースより

また、筋炎のモデルマウスを用いて、PD-1+CD8+T細胞の病原性も検証しました。

その結果、PD-1を発現していないCD8+T細胞と比較してPD-1+CD8+T細胞が細胞溶解分子を高発現していました。特に傷害された筋組織において、細胞溶解分子を発現するPD-1+CD8+T細胞の集積が顕著でした。PD-L1ノックアウトマウス(PD-L1KO)と通常のマウスを比較したところ、PD-L1ノックアウトマウスの筋組織では、筋力低下が顕著に見られ、筋炎が重症化し、細胞溶解分子を高発現するPD-1+CD8+T細胞の増加が見られました。

画像はリリースより

以上より、筋炎において、PD-1+CD8+T細胞は筋傷害に関与する病的なサブセットであることが発見されました。

一方、PD-1+CD8+T細胞からの攻撃には、特発性炎症性筋疾患(IIM)の筋線維はPD-1+CD8+T細胞の攻撃に対抗すべくPD-L1を発現しているように見えます。これまで、筋線維におけるPD-L1の制御メカニズムは十分にわかっていませんでしたが、筋炎においてCD8+T細胞などから産生されるIFNγがCDK5という分子を介して、筋線維のPD-L1発現を制御していることを明らかにしました。 また、IFNγによってPD-L1が高発現した筋線維はCD8+T細胞の攻撃を減弱させることも解明されました。このことから、特発性炎症性筋疾患(IIM)において、筋線維は危険信号としてIFNγに反応し、PD-L1発現を介してPD-1+CD8+T細胞に反撃していると言えます。

画像はリリースより

以上の研究成果より、特発性炎症性筋疾患(IIM)患者さんのPD-1+CD8+T細胞は疲弊せず、むしろ病態形成に関与していることが明らかになりました。このことは、特発性炎症性筋疾患(IIM)において、T細胞が疲弊を回避するメカニズムが存在することを示唆しています。今回の研究成果より、特発性炎症性筋疾患(IIM)のみならず、慢性的に自己の抗原により免疫細胞が刺激されていると考えられる多くの自己免疫疾患の病態の理解に重要な知見となり、新規治療法の可能性が期待できるといいます。

なお、同研究は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、同研究の成果は、国際科学誌「Journal of Autoimmunity」オンライン版に、11月4日付で掲載されました。

出典
東京医科歯科大学 プレスリリース

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