全身性エリテマトーデス診療ガイドラインについて-第63回 日本リウマチ学会総会・学術集会-
2019年4月15日(月)より17日(水)まで、国立京都国際会館およびグランドプリンスホテル京都にて、第63回日本リウマチ学会総会・学術集会が開かれました。会中のシンポジウム14 “リウマチ性疾患のガイドライン”にて、全身性エリテマトーデス(SLE)の診療ガイドラインに関する講演がありましたのでご報告します。
SLEはDNA-抗DNA抗体などの免疫複合体の組織沈着により、全身性炎症性症状を示す自己免疫疾患です。日本国内の患者数は6万人超と報告されています。
これまでSLEでは、特定の治療薬に関するガイドラインや診療の手引きはあるものの、疾患全体を包括する診療ガイドラインは存在しませんでした。しかし、このたび日本リウマチ学会と厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「自己免疫疾患に関する調査研究班」が共同で、国内初の専門医向けSLE診療ガイドライン作成に取り組みました。この他にガイドライン作成では日本臨床免疫学会、日本皮膚科学会、日本腎臓学会、日本小児リウマチ学会が協力しています。
先ごろ京都で開催された日本リウマチ学会のシンポジウムでは、作成にかかわった北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教授の渥美達也先生が新ガイドラインの内容の一部を明らかにしました。
渥美先生は、世界的に見ると、これまでSLEでは代表的な症状であるループス腎炎に関するガイドラインはあっても、SLE全体を包括する診療ガイドラインがは現時点でイギリスにしかないことを紹介。この背景について、SLEでは皮膚症状、腎症状、関節症状、血管症状など「臨床的多様性に富んでいる」ことが大きな要因であることに加え、二重盲検比較試験(RCT)のような科学的に厳格な臨床研究が必ずしも多くないためと説明しました。
このため今回のガイドライン作成に当たっては、臨床研究が豊富な腎症状、皮膚病変、神経精神症状、血管症状では、これまでに報告されている臨床研究の文献をくまなく調査・分析するとともに、それ以外の症状ではガイドライン作成にかかわった専門医の見解での合意に基づく形を取りました。
ガイドラインは37件の臨床的課題に対するQ&Aで構成され、各治療の推奨に関しては、強い推奨に関しては「推奨する」、弱い推奨に関しては「考慮する」、この中間を「提案する」という3段階で表記しました。なお、ガイドラインは患者代表も含む外部評価者の意見も考慮しています。
この中の代表例として渥美先生は、SLEに対するヒドロキシクロロキン(製品名・プラケニル)に使用について解説しました。
ヒドロキシクロロキンはRCTで皮膚症状と関節痛への有効性、SLE再燃リスクの低下が報告されており、その他にも臓器障害、血栓症、感染症、死亡のリスク低下が報告されています。また、リウマチ性疾患の世界コンセンサスT2Tでも全てのSLE患者さんでの使用が推奨されています。
新ガイドラインでは腎症、皮膚症状、関節症状を有する患者さんでの使用、再発抑制の観点からの全てのSLE患者さんでの使用に関して「考慮する」という弱い推奨にとどめました。
これについて渥美先生は(1)日本では治験でスティーブン・ジョンソン症候群などの重篤な副作用が複数確認された、(2)副作用であるヒドロキシクロロキン網膜症の日本人での病態とリスクについて検証されるまでは慎重な対応が求められる、ことが理由であると述べ、「使用経験の浅い日本で全てのSLE患者での使用を推奨するのには慎重になるべきである」との結論に達し、臨床研究文献の分析と専門医の見解での折衷案をとったことを説明しました。
また、ループス腎炎の国際腎臓学会/米国腎臓病学(ISN/RPS)分類のクラス3/4での寛解導入療法では、「グルココルチコイド(プレドニゾロン換算で1日体重1kg当たり0.5~1mg±メチルプレドニゾロンパルス療法)に加えて、ミコフェノール酸モフェチルまたはシクロホスファミド間欠静注療法を推奨する。状況に応じて免疫抑制薬の併用を提案する」としたことを明らかにしました。
これについて渥美先生は、ミコフェノール酸モフェチルとシクロホスファミド間欠静注療法のケースを比較した研究のメタ解析で有効性と安全性が同等だと判断したこと、一方、シクロホスファミド間欠静注療法と免疫抑制薬併用療法を比較したメタ研究では併用療法の方が効果が高い可能性が示唆されたものの、肺炎のリスクは明らかに併用療法の方が高いという結果になったための判断と述べました。
さらに妊娠計画時、妊娠中、出産後・授乳中のSLE薬物療法については、従来から研究報告が少ない分野ですが、国内外の研究報告に沿って妊娠計画時にはミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、メトトレキセート、ミゾリピンを使用している場合は薬剤変更、妊娠中はグルココルチコイド、ヒドロキシクロロキンの使用をいずれも「推奨する」と定めました。
そのうえで日本独自として妊娠中では前述の2剤で効果不十分な場合は、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンの使用を「考慮する」と弱い推奨をしたことを説明。また、根拠となる厳格な臨床研究はないものの、作成に参加した専門家の合意として妊娠中の中等度から重度の再燃時にはメチルプレドニゾロンパルス療法あるいはγグロブリンの大量療法、さらにこうした再燃が妊娠中・後期に出現した場合はアザチオプリンの使用を「考慮する」としました。同様に授乳期の薬剤についてはミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、メトトレキセートは避けることも専門家の合意として採用しました。
なお、新ガイドラインは既に日本リウマチ学会の会員専用HPで公開中で、今秋には書籍として発刊予定です。