ダウン症患者さん由来の神経細胞におけるアミロイドβの分泌、抗酸化剤で抑止
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月31日、ダウン症の神経細胞ではアミロイドβが過剰産生されることと、それを抗酸化剤であるN-アセチルシステインの添加によって抑制されることを、ダウン症患者さんに由来したiPS細胞から作製した神経細胞を用いた研究で明らかにしたと発表しました。
この研究成果は、CiRA臨床応用研究部門の利川寛実大学院生(現:済生会吹田病院)、同部門の齋藤潤准教授ら研究グループによるもので、結果は科学誌「Scientific Reports」誌に8月30日付で公開されました。
ダウン症は21番染色体を3本もつ(トリソミー21)先天性の染色体異常症。先天性心疾患や骨格の異常、免疫の異常などさまざまな症状が認められます。最も特徴的な症状は発達および知的障害で、約60%の患者さんが若年性アルツハイマー病を発症することが知られています。
ダウン症における若年性アルツハイマー病の発症原因のひとつとして、アルツハイマー病の原因物質のひとつと考えられている「アミロイドβ」を産生するAPP遺伝子が過剰にあることが考えられています。
APP遺伝子は21番染色体上にあります。21番染色体は通常2本存在しますが、ダウン症候群では3本存在します。APPタンパクは脳内で切断され、アミロイドβとなります。ダウン症患者さんの脳内には多くのアミロイドβがあり、病理学的にはアルツハイマー型認知症患者さんと同様の形態を示します。
また、高い酸化ストレスが神経障害を引き起こしていることも原因のひとつであると考えられており、アミロイドβと酸化ストレスは複雑に関係しているため、抗酸化剤は治療のターゲットになりうると考えられているそうです。
そこで研究グループは、ダウン症の患者さんの神経細胞に抗酸化剤であるN-アセチルシステインを投与し、アミロイドβ分泌に及ぼす効果を検証。まず、NGN2遺伝子を過発現する手法を用いて、ダウン症の患者さんのiPS細胞から神経細胞を作成(D-iNs)。また、事前に同じダウン症iPS細胞から21番染色体を1本削除した細胞を作成しており、その細胞からも同様に神経細胞を作成しました(E-iNs)。
次に、この2つの神経細胞のアミロイドβの分泌量として、アミロイドβ40(Aβ40)とアミロイドβ42(Aβ42)を測定。その結果、D-Nsからは、E-iNsよりも多くのAβ40、Aβ42が分泌されていたそうです。
そして、これらの神経細胞に抗酸化剤のN-アセチルシステインを投与したところ、分泌されるアミロイドβが優位に減少。逆に、酸化剤である過酸化水素(H2O2)を投与すると、アミロイドβの分泌が亢進したといいます。
この研究成果により、N-アセチルシステインがアミロイドβ分泌を有意に抑制することが確認できました。研究グループはプレスリリースにて、「N-アセチルシステインはアルツハイマー病のモデルマウスの認知機能を改善する効果や、酸化ストレスによる神経細胞死を改善する効果などが報告されており、様々な神経心理疾患、神経変性疾患での研究が進んでいます。本研究の成果は、ダウン症の治療の選択や、今後の治療法の研究に役立つと期待されます」述べています。