原発性胆汁性胆管炎のゲノムワイド関連解析で新規疾患感受性遺伝子と治療薬候補を同定
長崎大学は6月18日、原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者さん約1万症例とコントロール約2万例のゲノムワイド関連解析(GWAS)データを用いたメタ解析の結果、新規疾患感受性遺伝子領域を含む計60か所のPBC疾患感受性遺伝子領域を同定することに成功したと発表しました。
この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科の中村稔教授(長崎医療センター客員研究員)のグループ(日本人PBC-GWAS consortium)と英ケンブリッジ大学George Mells博士のグループ(UK-PBCconsortium)らによるもの。論文は「Journal of Hepatology」に5月21日付で掲載されました。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、中年の女性に好発する胆汁うっ滞性の肝疾患で、患者総数は日本国内で5~6万人と推定されています。進行すると食道静脈瘤、腹水、黄疸、脳症などが出現して肝不全となり、治療法は肝移植しかなくなる難病です。
ウルソデオキシコール酸やベザフィブラートといったお薬の内服により、多くの症例で進行を抑えることが可能となりましたが、約10%の患者さんは治療抵抗性で肝不全に進行します。胆汁酸毒性や自己免疫的機序によって肝臓内の小さな胆管が破壊されることが主な病因と考えられていますが、詳細は明らかになっていません。
今回の研究では、イギリス、イタリア、カナダ、米国、中国、日本が参加した国際共同研究である「PBC-GWAS」に登録された原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者さん10,516症例とコントロール20,772例のゲノムワイド関連解析(GWAS)データを用いて国際メタ解析実施。その結果、計60か所のPBC疾患感受性遺伝子領域を同定することに成功し、この中には21か所の新規疾患感受性遺伝子領域も含まれていたそうです。
21か所の疾患感受性遺伝子座の中には、FCRL3、INAVA、PRDM1、IRF7、CCR6など、免疫反応に重要な役割をもつ遺伝子が多く含まれ、PBCの発症にさまざまな免疫担当細胞の活性・分化経路が関与していることが改めて示されました。
また疾患感受性遺伝子領域は、異なる人種間においておよそ70%の一致率で、ある程度の相違がありました。PBC発症に関わる遺伝子構造や疾患発症経路は異なる集団間で共通しており、TLR-TNF signaling、JAK-STAT signaling細胞のTFH,TH1,TH17,TREG細胞への分化経路やB細胞の形質細胞への分化経路がPBCの発症に重要であることが明らかになったとしています。
さらに、これらのGWAS情報を用いたin silico drug efficacy screening(病気に関連する遺伝子情報や薬物の標的分子の情報、分子間相互作用などを基に組み立てられたネットワーク情報を用いて推定する方法)により、既存の薬物の中からPBC治療への再利用が期待される薬物候補を探索したところ、免疫療法薬(ウステキヌマブ、アバタセプト、デノスマブ)、レチノイド(アシトレチン)、フィブラート(ベザフィブラート)などが同定されました。
その一方で、PBC治療の第一選択薬として広く使用されているウルソデオキシコール酸は、今回のスクリーニング方法では薬物候補としては選択されず、GWASの結果から推定された疾患発症経路とは異なる経路上の標的に作用している可能性が示唆されたといいます。
研究グループは、プレスリリースにて「今後は、本研究で得られたデータを用いて、疾患感受性遺伝子を介した疾患発症の分子機構の解明がすすむとともに、ウルソデオキシコール酸やベザフィブラート治療に抵抗性で肝硬変、肝不全に進行する症例に対する新しい治療薬が開発されることが期待されます」と述べています。
出典元
長崎大学 プレスリリース