CADASILに関連する急性期脳梗塞患者さんにおいてもrt-PA静注療法が安全かつ有効である可能性
国立循環器病研究センターらの研究グループは10月31日、合計609人のCADASIL患者さんが登録されているアジアの4つの主要なCADASIL患者コホートから、急性期脳梗塞に対して遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベーター(recombinant tissue-type plasminogen activator: rt-PA)を用いた静注血栓溶解療法(以下、rt-PA静注療法)が行われたCADASIL患者さん12人を抽出し、rt-PA静注療法がCADASILに関連する急性期脳梗塞においても安全かつ有効である可能性を見出したと発表しました。
CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症、指定難病124)は、NOTCH3遺伝子の病的バリアント(病気の発症に関連する遺伝子の変化)が原因となり、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式で発症し、高い確率で脳梗塞を発症する遺伝性脳小血管病です。最近の研究結果では、国内に数万人以上のCADASIL患者さんがいると考えられています。現在の主な治療法は、一般的な脳梗塞の原因である脳血管の急性閉塞に対する治療法として、脳血管に形成された血栓を物理的に除去することを目的とした血管内血栓回収療法と、血栓を溶かす作用を有するrt-PA静注療法です。
しかし、欧州のガイドラインでは、CADASIL患者さんに生じた脳梗塞に限定すると、確実な有効性が示された治療法はなく、CADASIL患者さんに対してrt-PA静注療法を行うべきではないと記載されています。そのため、医師はrt-PA静注療法に慎重にならざるを得ない現状がありました。
今回、研究グループは、国立循環器病研究センター、国立台湾大学病院、台北栄民総医院、済州大学病院に通院中の609人のCADASIL患者さんから、過去に脳梗塞を発症し、rt-PA静注療法が行われた12人を抽出し、rt-PA静注療法の有効性と安全性を評価しました。
その結果、rt-PA静注療法を施行された12人中10人が、治療90日後の時点で、日常生活に支障がない状態(modified Rankin Scaleスコア0または1)まで回復していました。また、脳出血の合併は認められませんでした。このことは、rt-PA静注療法が総じて有効であったことを示しています。
以上の研究成果より、国際共同研究において、急性期脳梗塞を発症した遺伝性脳小血管病CADASIL患者さんにもrt-PA静注療法が有効であったことを初めて示しました。今後、CADASIL患者さんが急性期脳梗塞を発症した際の治療方針の決定において、今回の研究結果は重要な参考データになると予想されます。
国立循環器病研究センターは今後の展望について、「今回の知見は大変重要な結果ではありますが、CADASILの診療ガイドラインの策定を目指している本研究グループの事業全体から捉えると「スタート地点」と捉えるべきかもしれません。本研究グループは、世界最大のCADASIL患者を対象とした観察研究:CADREAを2023年より開始しており、1000人以上のCADASIL患者の追跡調査を予定しております。今後もCADASIL患者への最適な医療の提供を目指し、CADREA研究から今回のような臨床エビデンスの創出を目指していく予定です」と述べています。
なお、同研究の成果は、「Stroke」オンライン版に10月30日付で掲載されました。