デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「ビルトラルセン」、製造販売承認を取得
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は3月25日、日本新薬株式会社と共同で見出したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬「NS-065/NCNP-01(ビルトラルセン)」について、日本新薬が厚生労働省から製造販売の承認を受けたと発表しました。
NCNPと日本新薬の共同研究で創製されたエクソン・スキップ作用を有する核酸医薬品
NS-065/NCNP-01は、NCNPと日本新薬の共同研究を通して創製されたエクソン・スキップ作用を有する核酸医薬品。ジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有するDMD患者さんに対する治療薬として開発されました。
NCNPは、日本医療研究開発機構(AMED)研究費、厚生労働科学研究費等の公的支援を受け、基礎研究から臨床応用に至るまでNS-065/NCNP-01の研究開発を継続的に実施。NS-065/NCNP-01を初めてヒトに投与する治験は、NCNPによる医師主導治験として実施されました。
NCNPが構築した神経・筋疾患のナショナルレジストリー「Remudy」 を活用
DMDなど患者数が少ない希少疾患は、被験者の集積の困難さにより治験実施に長期間を要します。今回の医師主導治験では、NCNPが構築した神経・筋疾患のナショナルレジストリー「Remudy」を用いて、効率的に被験者を集積することができたそうです。
以上の結果などを踏まえて、共同開発先である日本新薬による企業治験が実施され、今般、医師主導治験および日本新薬が実施した治験の成績に基づき、厚労省からNS-065/NCNP-01の製造販売の承認を受けました。
日本国内におけるDMDに対する標準治療法は、進行を遅らせるステロイド剤以外では、脊椎変形に対する手術治療、理学療法、呼吸補助および心不全対策などの対症療法のみです。NS-065/NCNP-01は、日本で初めて実用化されるエクソン・スキップ治療薬であり、エクソン53スキッピングの治療対象になるDMD患者さんのジストロフィン産生を回復させることにより、疾患の進行を抑制するとともに疾患の状態を改善することが期待されています。
■用語集
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、男児に発症するもっとも頻度の高い遺伝性筋疾患。ジストロフィンと呼ばれる筋肉の骨組みを作るタンパク質の遺伝子変異により、正常なジストロフィンが作られなくなることで、重篤な筋力低下を示します。現在、その進行を遅らせるステロイド剤以外に有力な治療法は存在しません。
NS-065/NCNP-01(ビルトラルセン)
NS-065/NCNP-01(ビルトラルセン)は、モルフォリノ化合物で合成されたアンチセンスと呼ばれる核酸医薬品であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン53スキップに応答する遺伝子変異を有する、DMD患者さんを対象に開発されました。核酸医薬品は遺伝子の構成成分である核酸と類似した構造を持ち、特定の遺伝子配列を標的として、その遺伝子から作られるタンパク質の産生を調節することで作用します。核酸医薬品により従来の低分子医薬品では難しかった疾患の治療が可能になると期待されています。
エクソン・スキップ作用
エクソン・スキップ作用とは、アンチセンス核酸と呼ばれる短い合成核酸を用いて、遺伝子の転写産物(メッセンジャーRNA)のうち、タンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を人為的に取り除く(スキップする)ことで、アミノ酸の読み取り枠のずれを修正する治療法です。正常なジストロフィンタンパク質に比べると、その一部が短縮するものの、機能を保ったジストロフィンタンパク質が発現し、筋機能の改善が期待できます。この治療の対象になるエクソンは、患者さんの変異形式に応じて異なり、NS-065/NCNP-01は、エクソン53を対象にしています。
ジストロフィン遺伝子
ジストロフィン遺伝子とは、ジストロフィンと呼ばれる筋肉の細胞の骨組みを作るタンパク質(ジストロフィン・タンパク質)の遺伝子のことです。
神経・筋疾患のナショナルレジストリーRemudy(Registry of Muscular Dystrophy)
希少疾患の治療法開発や創薬には、正確な疫学情報と臨床試験の参加者を速やかに集める仕組みが必要です。その仕組みとして、NCNPは、2009年に神経・筋疾患を対象とするナショナルレジストリー「Remudy」を開始しました。Remudyは患者さんと製薬関連企業・研究者との橋渡しをする登録システムであり、円滑な臨床試験の実施を可能にするとともに、患者さんへタイムリーに研究や臨床試験に関する情報を提供しています。
医師主導治験
治験は「新薬の申請資料作成のための臨床試験」と定義されますが、治験には製薬企業が医療機関に依頼する治験と、医師自らが企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験の2種類があり、後者を医師主導治験と呼びます。たとえば、採算性やリスク面から製薬企業が治験を行わない場合や、先端医療などの新規の治療法であるために効果が未知であることから企業が治験実施に消極的な場合等に、医師主導治験が実施されることがあります。