全身型若年性特発性関節炎(sJIA)と成人発症スチル病(AOSD)に治療選択肢が拡大、新薬「キネレット皮下注」がもたらす変化
Swedish Orphan Biovitrum Japan(Sobi Japan)株式会社は9月7日、「全身型若年性特発性関節炎(sJIA)と成人発症スチル病(AOSD)の初期治療に使用可能な新薬が登場」と題したメディアセミナーを開催。名古屋医療センター名誉院長の堀田知光先生、東京科学大学国際医工共創研究院生涯免疫医療実装講座/聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科教授の森雅亮先生が講演しました。
16歳未満発症の全身型若年性特発性関節炎(sJIA)と16歳以上発症の成人発症スチル病(AOSD)は、診断名が異なるものの共通の自己炎症病態を持つ疾患群です。両疾患の新たな選択肢として、2026年8月20日にインターロイキン-1受容体拮抗薬「キネレット皮下注100mgシリンジ」(一般名:アナキンラ(遺伝子組換え))が発売されました。セミナーでは、病態の特徴、開発背景、治験結果、今後の役割について解説が行われました。
発症年齢による診断名の違いと共通する自己炎症の病態
sJIAは16歳未満で発症し(平均5歳)、関節炎を必須とする分類基準(ILAR分類基準)で診断されます。一方、AOSDは16歳以上で発症し(平均27歳)、関節炎を必須としない分類基準(山口の分類基準)が用いられてきました。森先生は、「年齢が異なるだけでほぼ同一の病態に属する『共通の病態スペクトラムである』というスタンスが、欧米を中心に進んできました」と説明しました。
両疾患の主な症状として、高熱と平熱を繰り返す弛張熱、高熱時に現れて消えるサーモンピンク色の皮疹、関節痛や関節炎などが挙げられます。病勢初期は高熱や皮疹を伴う自己炎症プロセスが主体ですが、進行すると破壊的な関節炎が固定化するリスクがあります。森先生は、「早い時期に治療を開始し、サイトカインであるIL-1やIL-6を阻害することで急性期の自己炎症状態を抑えることが大切です」と述べ、初期段階での適切な治療開始の重要性を説明しました。

全身の炎症を抑えるため、従来は副腎皮質ステロイドの大量投与が優先されてきました。ステロイドは一時的に炎症を抑える効果を持つ一方、長期使用に伴う副作用が課題となっています。食欲亢進による肥満、顔が丸くなる変化(ムーンフェイス)、多毛といった容姿の変化について森先生は、「子供は表面的な変化で学校に行けなくなったり、いじめられたりしてしまうことがあり、精神的な苦痛が非常に大きいです」と指摘しました。
小児期の成長障害(身長が伸びないことなど)は成長期を過ぎると回復が難しい影響をもたらすほか、糖尿病、血圧上昇、骨粗鬆症といった合併症リスクも長期化に伴い高まります。森先生は、「小児リウマチ領域では、できるだけステロイドを使わない治療にしようという方針になっており、最終的にステロイドを使用しない臨床的非活動性(CID)を目指すことが目標となっています」と説明しました。
国内でのドラッグロスとSobi Japan設立による開発の進展
キネレットは、体内に存在するヒトIL-1受容体拮抗薬(IL-1Ra)と同等の構造を持つ遺伝子組換え製剤です。炎症を駆動する最上流のサイトカインであるIL-1αおよびIL-1βを標的とし、細胞表面の受容体に結合してシグナル伝達を遮断することで、自己分泌ループによる炎症の増幅を抑制します。

国内導入の歴史について堀田先生は、「2015年に今回承認された適応とは異なる適応に対して日本で最初に開発要望が出され、検討会議で医療上の必要性が極めて高いと判定されましたが、国内に開発を担う企業や法人が存在しなかったため、ドラッグロスの状態にありました」と振り返りました。
その後、2019年に学会から厚生労働省へ改めてsJIAならびにAOSDに対するキネレットの開発要望が出され、2020年のSobi Japan設立に伴い開発が再開されました。堀田先生は、「厚生労働省による開発要請と日本法人の設立、および開発着手の時期が重なったことで一気に導入が推進されました」と語りました。
重篤な合併症「MAS」発現時も投与継続が可能なケースも
日本人患者15例(sJIA5例、AOSD10例)を対象とした国内第3相臨床試験では、キネレットの有効性と安全性が評価されました。主要評価項目である「投与2週間時点における発熱を伴わないACR 30反応率」は、プラセボ群の14.3%(7例中1例)に対し、キネレット群は87.5%(8例中7例)を達成し、統計学的に有意な差(p値=0.009)を示しました。また、投与1週目の時点から速やかな解熱と全身症状の改善傾向が認められています。
ステロイド併用患者7例のうち6例で減量が達成され、減量開始までの中央値は22日と報告されました。森先生は、既存の生物学的製剤がステロイド投与後の維持目的で使われてきた実態と比較し、「キネレットは非常に早い時期から、ステロイドを使うか使わないかという選択肢の中で使用できる可能性があります」と解説しました。
同剤は1日1回の皮下注射製剤であり、治験で報告頻度が高かった有害事象は注射部位反応(発赤、腫脹など)でした。これらの局所反応は軽度から中等度であり、注射部位反応を理由に投与を中止した症例はありませんでした。
重篤な合併症であるマクロファージ活性化症候群(MAS)は、活性化したマクロファージが自身の血球を貪食し多臓器不全を招く病態です。従来の生物学的製剤ではMAS発現時に投与を全停止することが一般的でしたが、キネレットの添付文書ではMAS発現時も「投与継続の可否を慎重に判断するとともに、速やかにMASに対する適切な治療を行うこと」と記載されています。森先生は、「投与を中止することなく、適切な治療と並行して本剤の投与を継続できる基準が示されたことは意義深いです」と述べました。
2019年の開発要望から7年。sJIAならびにAOSDに対するキネレットの承認によって、早期にCIDを目指すための治療選択肢が広がりました。AOSDやsJIA治療の現状について、森先生は「診療ガイドライン(アルゴリズム)等に記載されている治療方針に従い、初期から適切な薬剤を使用して目標達成に向けた治療(T2T:Treat to Target)に則った管理を行うことで、ドラッグフリー寛解がより現実的になってきたと考えております」と語り、講演を締めくくりました。
