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転写因子「IRF5」の阻害が全身性エリテマトーデス(SLE)の新規治療法となる可能性

横浜市立大学は7月20日、全身性エリテマトーデス(SLE)における転写因子「IRF5」の阻害が現行治療法の限界を克服した新たな治療法となる可能性を、患者検体と動物モデルを用いた実験によって証明したと発表しました。

この研究は、同大大学院医学研究科免疫学の藩龍馬助教ら研究グループによるもので、研究成果は国際科学雑誌「Nature Communications」に7月19日付で掲載されました。

自己免疫疾患の難病である全身性エリテマトーデス(SLE)では、ステロイドや免疫抑制剤を中心とする治療により、生存率は高い一方で、日和見感染をはじめとするさまざまな副作用があり、生活の質(QOL)や長期に予後を改善する新たな治療法が求められています。これまでに、SLE患者さんを対象としたI型IFN受容体に対する抗体の治験が進んでおり、有効性が示されましたが、未だ再燃率は高く、再燃を一層抑えられる新規治療法の開発が課題だったそうです。

研究グループはこれまでに、転写因子IRF5の過剰活性化によりSLEの増悪サイクルが形成されることや、前もってIRF5の量を半減させるだけでマウスSLEの発症を未然に防げることを示していました。これらの結果から、IRF5はSLEの有力な治療標的候補でしたが、臨床経過に伴うIRF5の活性化状態の変化や、発症「後」のIRF5阻害が治療効果を示すかどうかは不明でした。

今回の研究では、SLE患者さんの末梢血中の免疫細胞におけるIRF5の活性化状態を、核移行を指標に解析。健常者群と比較してSLE患者群の多くではIRF5が高い活性化状態にあったそうです。その一方でIRF5異常活性化は、現行の標準治療を受け、疾患活動性が低下した寛解期の患者群でも同様に生じており、I型IFN産生の指標であるIFN誘導遺伝子も、活動期群・寛解期群いずれにおいても高発現していました。

さらに、活性化型IRF5のみを認識するモノクローナル抗体を作製し、試験管内解析を行ったところ、プレドニゾロンやヒドロキシクロロキンなどの現行治療薬は白血球を自然免疫刺激した際のIRF5活性化を阻害できず、現行治療法はSLEにおける異常なIRF5活性化とIFN誘導遺伝子発現を十分に抑制できないことが示唆されたとしています。

以上の結果から、研究グループは「IRF5はI型IFN 産生に重要であるため、IRF5の阻害はI型IFNの阻害以上の効果を持たないのではないか」と考察。マウスSLEモデルを用いてI型IFN受容体遺伝子欠損とIRF5遺伝子欠損の効果を比較しました。その結果、IRF5の量を半分だけでも欠損させた方が、I型IFN受容体を完全に欠損させるよりも病態発症を防ぐことができました。この結果は、IRF5はI型IFN産生以外の作用も持っており、治療標的としてI型IFNより優れている可能性を示しています。

これらの実験は、SLEの発症前に標的分子の遺伝子を欠損させておく言わば「予防」実験だったため、発症後にIRF5遺伝子を欠損させる「治療」実験を実施。その結果、発症後であってもIRF5の欠損によって、マウスSLEモデルにおける病態進行が顕著に抑制され、抗体産生細胞を除去する薬剤「ボルテゾミブ」で寛解導入療法を行った場合、同時にIRF5遺伝子を欠損させると寛解を長く維持できることが明らかになりました。

これらの結果を実際の治療薬開発に結びつけるため、研究グループはIRF5阻害剤の開発を開始し、約10万個の化合物の高速大量スクリーニングによってIRF5阻害活性を持つ化合物「YE6144」を取得。マウスSLEモデルにおけるIRF5阻害剤の薬効評価を行った結果、発症後のYE6144の単剤投与では、病態の増悪が抑制されたそうです。

さらに、発症後に寛解導入療法を行なった場合、対照群では自己抗体産生が速やかに再燃するのに対し、YE6144投与群では再燃が顕著に抑制されました。また、糸球体腎炎など他のSLE症状も明らかに軽減したそうです。これにより、遺伝学的な手法のみならず、阻害剤を用いた場合でもIRF5を標的とすることの有効性が示されました。

画像はリリースより

今回の成果について、研究グループはプレスリリースにて、「現行の治療薬は臨床症状を抑えて寛解状態に導けるが、IRF5活性化やIFN産生が持続し隠れた増悪サイクルが回り続ける、言わば「くすぶり」状態にあり、これによって再燃が生じる可能性があると考えられます。そして、IRF5の阻害は現行のSLEの治療法の限界を克服した新しい治療法となることが期待されます。今回の化合物YE6144は治療薬としてはまだ試作段階であるため、臨床応用を目指し、IRF5阻害剤の最適化研究をさらに推し進めていきたいと考えています」と述べています。

出典元
横浜市立大学 プレスリリース

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