潰瘍性大腸炎(UC)の粘膜組織異常、テロメア長の短縮が原因か
東京医科歯科大学は7月5日、炎症性腸疾患(IBD)の一種である潰瘍性大腸炎(UC)における腸上皮再生不良・機能異常の原因がテロメア長の短縮によるものであることをつきとめたと発表しました。
この研究成果は、同大大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の土屋輝一郎非常勤講師(筑波大学医学医療系教授)と渡辺翔非常勤講師ら研究グループによるもので、国際科学誌「Journal of Crohn’s and Colitis」に6月28日付でオンライン先行公開されました。
炎症性腸疾患のうち、とくに潰瘍性大腸炎は日本国内で患者が急増している難治性の疾患です。長い罹病期間の間で再燃と寛解を繰り返しますが、寛解を維持するためには炎症を鎮め、粘膜の潰瘍を治癒させることが必要です。さらに、炎症を抑制して潰瘍を治癒してとしても粘膜自体の異常が残ることも指摘されており、再燃の危険性が示唆されています。そこで近年では粘膜の構造異常も正常化させる「組織学的治癒」を治療目標とすることが提唱されています。しかし、粘膜の腸上皮細胞の再生や正常化に直接効果が期待できる治療薬は開発されていません。
これまでに研究グループは、長期の炎症が大腸上皮細胞の形質を変化させ、大腸の機能低下や発がんのリスクになることを解明していましたが、その原因因子は不明でした。そこで、同グループは炎症性腸疾患と同じ腸内環境を再現するために、ヒト大腸上皮オルガノイド(臓器特異的幹細胞やその幹細胞から分化した細胞群を含む細胞塊)を1年以上にわたり炎症刺激を行い、同一人物由来の細胞から人工的にIBD様の腸上皮オルガノイド細胞を作成。ヒト体外潰瘍性大腸炎モデルとして報告していました。
今回、研究グループはヒト体外潰瘍性大腸炎モデルの解析によって、大腸上皮オルガノイドのテロメア長が炎症刺激の経過に伴い短縮することを初めて発見。潰瘍性大腸炎患者さんの検体に由来した腸上皮オルガノイドにおいても、テロメア長が正常腸上皮オルガノイドよりも短いことを確認しました。
正常大腸オルガノイドにテロメア短縮剤のみを添加すると、杯細胞形質の抑制や細胞障害などIBD形質を獲得した一方、IBD様大腸オルガノイドにテロメア伸長剤を添加すると、炎症環境でも上皮幹細胞が増加し、細胞増殖が認められただけでなく、杯細胞形質を誘導したといいます。それを免疫不全マウス大腸へ移植したところ、生着率の向上と杯細胞増加を伴う正常なヒト大腸腺管を構築したとしています。
今回の研究では、腸上皮細胞の炎症によって起こる不可逆性の変化にテロメア短縮が重要な役割を果たしていることが判明し、炎症を抑制するだけでは改善しない上皮異常をテロメア伸長剤によって回復させられることが確認されました。研究グループはプレスリリースにて、「この候補薬剤(テロメア伸長剤)は既存の治療薬の標的とは全く異なり、上皮細胞の正常化、粘膜再生効果が期待できます。この薬剤は難治性潰瘍の修復や長い寛解期間の維持など、IBDに対する予後の改善が見込まれるため、5年後を目処とした実用化を目指します」と述べています。