筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の病因タンパク質の機能を新発見
大阪大学および国立精神・神経医療センターらの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症 (ALS 指定難病2) および前頭側頭葉変性症 (FTLD 指定難病127) の発症に関与するTDP-43タンパク質について、神経細胞の軸索におけるリボソームのタンパク質合成を調整していると明らかにしました。TDP-43の機能障害が、ALSやFTLDの発症に繋がっている可能性が示されました。
背景-神経変性疾患の神経細胞に関わる TDP-43 タンパク質
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は徐々に全身の筋肉が動かなくなっていく進行性で致死的な難病です。一方、前頭側頭葉変性症 (FTLD) は人格変化や言語障害などが徐々に進行する難病です。ALS患者およびFTLD患者では、TDP-43と呼ばれるタンパク質が細胞質に沈着することが知られています。TDP-43はリボソームに結合し、リボソームの働きを調節します。神経細胞は、神経細胞同士が情報授受のために神経突起を伸ばして複雑な回路を形成しています。神経突起内ではmRNAなどの物質の輸送も行われており、神経突起内でのタンパク質合成に寄与しています。神経細胞の核から離れた神経突起部でのタンパク質合成は、神経突起の伸長時や神経突起の損傷時に特に重要な役割を持ちます。研究グループは、TDP-43が神経細胞内に沈着すると神経突起でのタンパク質合成を阻害するのではないかと仮定し、TDP-43とmRNAの軸索輸送の関連性について調べました。
結果と展望-知られていなかったTDP-43の機能を発見
研究グループは培養した神経細胞から、軸索部分のみを取り出す方法を確立しました。TDP-43を減少させた神経細胞の軸索で量が減るmRNAを測定したところ、リボソームを構成するタンパク質の情報を持ったmRNAの数が減っていました。これらの、リボソームタンパク質のmRNAは、軸索内でTDP-43と同じ場所に顆粒状に存在すること、リボソームタンパク質とTDP-43は結合していること、TDP-43が減少するとリボソームタンパク質mRNAを含む顆粒の軸索への輸送が減少すること、が明らかになりました。培養した神経細胞やマウス脳内の神経細胞では、TDP-43を減少させると神経軸索の伸長が悪くなることを明らかにし、さらに、この際にリボソームタンパク質を過剰発現させると軸索の伸長が改善することが確認されました。実際にTDP-43の異常沈着のあるALS患者では、脳組織内の運動神経が走行している領域でリボソームタンパク質mRNAが減少していました。本研究により、TDP-43の異常沈着を伴うALSおよびFTLDに対し、新たな治療の標的になり得る可能性が示唆されました。