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ドナーとの関係性が潰瘍性大腸炎患者への便移植治療に与える影響

順天堂大学は2020年6月25日、臨床研究として行っていた「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法」により、潰瘍性大腸炎(指定難病97)患者と移植便提供者(ドナー)との関係が兄弟姉妹または同世代(10歳以内)である場合に長期に高い治療効果がみられることを発表しました。患者ごとに適切なドナー選択できるようになると、より治療効果の高い個別化医療の確立にも繋がると期待されます。

潰瘍性大腸炎に対する便移植を活用した新たな治療法の検討

国の指定難病である潰瘍性大腸炎は、下痢や下血を伴う大腸の粘膜層に潰瘍やびらんができる疾患であり、寛解期と活動期を繰り返します。人口10万人あたり100人程度の患者がいると推定されており、患者数は年々増加しています。近年徐々に薬剤による治療効果も高まってきてはいますが、根本的な治療法は未だ確立されていません。腸内細菌叢の乱れが発症要因の1つであることが明らかになってきており、健康な方の便より腸内細菌を患者に移植し腸内環境を改善する治療法が副作用の少ない治療法として注目され、欧米では実用化されています。本研究では便移植を行う前に3種類の抗生剤(AFM:アモキシシリン、ホスミシン、メトロニダゾール)を投与する「抗生剤併用便移植療法(A-FMT療法)」の治療効果を検討しました。

抗菌剤を併用した便移植療法により症状が改善

本研究は2014年より約2年半の間行われ、92人の潰瘍性大腸炎患者が参加しました。患者自身が抗菌剤併用便移植療法(A-FMT療法)または抗菌剤療法単独(AFM療法)を選択しました。便移植は配偶者または親族のドナーより採取した新鮮便から腸内細菌を取り出し患者の盲腸に1回投与しました。投与後4週時点の結果A-FMT療法を選択した患者の約56%(治療が完遂した患者のみに着目すると約66%)に有効性が認められました。さらにAFM療法を選択した群と比較してA-FMT療法を選択した群では、より長期にわたり治療効果が確認され症状が再燃しづらいことがわかりました。

便移植ドナーとの関係性が治療効果に影響

患者とドナーの関係性を解析した結果、①兄弟姉妹間での移植である、②患者とドナーが同世代(年齢差が10歳以内)である、場合に長期間の治療効果が高くなりました。こうした結果から、兄弟間の腸内細菌の状態は、疾患発症前の患者の状態に近いことが推測され、さらに、年齢層により安定しやすい腸内細菌の種類が異なる可能性も示唆されています。今回の研究により患者とドナーとの関係性が治療効果に影響を与えることが示されました。アレルギー疾患やうつ病などの、腸内細菌が関与しているとされる他の疾患の治療法への応用が期待されています。

出典元
順天堂大学プレスリリース

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