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重度の脊髄損傷患者に対する組換えヒト肝細胞増殖因子製剤を用いた臨床試験結果を公表

クリングルファーマ株式会社は2020年6月24日、同社の実施する脊髄損傷急性期患者に対して行った組換えヒト肝細胞増殖因子(HGF)製剤(KP-100IT)の第I/Ⅱ相臨床試験の結果について公表しました。KP-100IT投与した患者ではプラセボ群と比較し運動機能回復傾向がみられ、さらに、脊髄損傷時に運動機能および感覚機能が重度に麻痺した患者に注目して解析を行ったところ、KP-100IT投与した患者の約33%が試験終了時に下肢の運動機能を獲得しました。組換えヒトHGFタンパク質は、急性脊髄損傷のみならず筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病の治療薬への応用も期待されており、1日も早い治療薬の開発が待たれています。

脊髄損傷に対する治療法への期待

脊髄損傷は交通事故や衝突などによって脊髄が物理的に損傷を受けることで、末梢の機能に麻痺や障害が現れます。国内では年間に5000人程度が障害を発症していると推定され、高齢者の増加からその患者数も徐々に増えています。損傷した脊髄は炎症などにより周囲にも損傷が拡大する「二次損傷」のリスクがあり、脊髄損傷急性期の治療では二次損傷の抑制が求められます。脊髄損傷急性期および二次損傷による麻痺は患者自身のみならず患者家族のQOLにも大きく影響を与えます。

肝細胞増殖因子の脊髄損傷治療効果

肝細胞増殖因子(HGF)は成熟肝細胞のDNA合成を促進する生体内物質として発見されましたが、最近では肝臓のみならず全身の様々な組織にも分布していることも明らかになっています。特に神経細胞や神経細胞の働きを補助するような細胞に対しては神経栄養因子として機能することも知られてきているため、神経変性疾患の治療薬としても期待が高まっている物質です。ラットなどの哺乳類を用いた過去の研究では、脊髄損傷モデル動物に対する治療効果が報告されています。

肝細胞増殖因子を用いた臨床試験の結果を公表

今回行われた試験では頸髄損傷によって運動機能が重度に麻痺した患者45名を対象に行われました。KP-100ITまたはプラセボ薬を損傷後3日目より投与し、その後1週間間隔で計5回反復投与しながらリハビリテーションを繰り返し、6ヵ月間の様子が観察されました。KP-100IT投与群はプラセボ群と比較し運動機能回復傾向がみられ、特に投与後140日時点では有意な差がありました。さらに、脊髄損傷時に運動機能および感覚機能が麻痺した患者では、KP-100IT投与した患者の約33%が試験終了時に下肢の運動機能を獲得しました。重度の頚髄損傷急性期患者に対して実施した今回の試験より、安全性に大きな問題がないことおよび、有効性の示唆を確認しました。試験のえ結果を受け、KP-100ITは2019年9月に厚生労働省により希少疾病用医薬品の指定も受けています。

出典元
日本医療研究開発機構

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