新型コロナウイルス治療薬およびワクチンの開発について
世界各地で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症「COVID-19」の流行が広がっています。難病や、希少疾患の分野で用いられてきた薬剤の中には、COVID-19の治療薬候補として注目されているものもあります。
ノバルティス(スイス)は2020年4月2日(現地時間)、サイトカインストームを伴うCOVID-19患者における「ジャカビ®(一般名:ルキソリチニブ)」の効果の評価を目的とした第Ⅲ相臨床試験を計画していると発表しました。サイトカインストームとは、ウイルスの感染などにより、サイトカインと呼ばれる免疫機能に関わる血中のタンパク質等が異常に上昇することです。サイトカインの上昇により血管が傷つけられ、ショックや多臓器不全に至ることもあります。日本国内でも、患者さんにジャカビ®が届くよう検討が進められています。
ノバルティス ニュース
富士フイルム富山化学株式会社(東京都)は2020年3月31日、抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠(一般名:ファビピラビル)」について、COVID-19患者を対象とした国内臨床第Ⅲ相試験を開始したことを発表しました。アビガン®は、ウイルスが複製するときに必要なRNAポリメラーゼの働きを阻害するので、ウイルスの増殖を防ぎます。こうした、ウイルス増殖のメカニズムに着目した薬の特徴から、インフルエンザウイルスと同様にRNAを利用し増殖するRNAウイルスである新型コロナウイルスについても効果が期待されています。
富士フイルム お知らせ
帝人ファーマ株式会社(東京都)は3月9日の厚生労働省健康局結核感染症課の要請により、新型コロナウイルス感染症への効果検討を行うため、吸入ステロイド喘息治療薬「オルベスコ®(一般名:シクレソニド)」の供給体制を確保することを発表しました。COVID-19による肺炎に対しオルベスコ®が有効と考えられる3例も報告されています。
過去にはオルベスコによる今回の対応については、同薬剤を既に使用中の気管支喘息患者への安定供給を保ったうえでの対応とのことです。
帝人ファーマ株式会社 プレスリリース
日本小児アレルギー学会
東京大学医科学研究所(東京都)は2020年3月18日、急性膵炎などの治療に用いられる「フサン®(一般名:ナファモスタット)」について、ウイルス(SARS-CoV-2)の外膜と、感染する細胞膜との融合の過程を阻止することでウイルスが細胞内に侵入することを防ぐ可能性を示しました。以前、ドイツの研究グループは、ナファモスタットの類似薬剤である「フォイバン®(カモスタット)」もSARS-CoV-2に対し有効であることを示していましたが、ナファモスタットはカモスタットよりも1/10の濃度でウイルスの侵入を阻止することを示しました。ナファモスタットは既に国内で急性膵炎の患者に長年使用されており安全性のデータが十分に蓄積されていることから、速やかに臨床試験を進めることが可能です。
東京大学医科学研究所 プレスリリース
SANOFI(フランス)とTranslate Bio社(アメリカ)は、COVID-19に対する新規のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発に向けた連携を開始することを発表しました。SANOFIはワクチンに対する専門知識を中心としたサポートを提供し、Translate Bio社はこれまで多くのmRNA構造体を製造しており、SARS-CoV-2に対し複数のワクチン候補の製造や設計を進めます。ヒトへの投与量は未定ですが、パンデミック下における必要量にも対応できる可能性を示しています。一般的にワクチンは弱毒化/無毒化した病原体や、病原体に似た物質を用いて、将来その病原体に感染した時に免疫機能が働くようにするものです。一方mRNAワクチンは、病原体に似た任意のmRNAを元に抗原提示を行うことで免疫を獲得することを目的としています。病原体そのものを体内に入れる必要が無く、また、mRNAの配列を変えるだけで様々な抗原に対しても対応が可能になるというメリットがあります。
SANOFI プレスリリース