全身性エリテマトーデスの女性患者さんの出産・妊娠を考えた治療指針-第63回 日本リウマチ学会総会・学術集会-
リウマチ性疾患では、例えば関節リウマチ(RA)では患者さんの約8割が女性であるなど、女性患者さんが多い疾患が少なくありません。女性の場合、男性と違ってそのライフステージで妊娠・出産を経験する可能性があります。これまでこうした患者さんでの妊娠・出産時には服薬を中止するなどの措置が取られ、その結果としての症状が悪化することもありました。
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業の「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠・出産を考えた治療指針の作成」研究班では、主に全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)・若年性特発性関節炎(JIA)・炎症性腸疾患(IBD)の診療にあたる医師とそれらの合併妊娠に従事する医師を対象とした「SLE・RA・JIA・IBD罹患女性患者の出産、妊娠を考えた診療指針」を作成し、関係10学会の承認を得て2018年3月に発表しました。
「全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針」(平成30年(2018年)3月発行)
https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/
先ごろ開催された第63回日本リウマチ学会総会・学術集会のシンポジウムでは、島根大学医学部第三内科准教授の村川洋子先生がこの内容について解説しました。
村川先生によると、治療指針では11項目のClinical Question(CQ:臨床的疑問)を設け、それに対応する推奨文が記載された内容になっています。各推奨文の最後にはA(強く勧められる)、B(勧められる)、C(考慮される)の3段階の推奨度と指針作成に参加した医師の同意度を記載しています。村川先生は指針での妊娠容認基準(CQ1、CQ2)について「寛解状態が維持されていること」と説明しました。SLEでの妊娠容認基準は寛解維持期間が6カ月で、ループス腎炎では(1) 非活動性ループス腎炎(2) 尿蛋白が0.5g/日以下(3)GFR区分G1、G2(4)妊娠中使用可能な薬剤で腎炎が安定している、の全てを満たす場合。RAとJIAでは、RAは寛解、少なくとも低疾患活動性の場合として、妊娠禁忌薬を中止して一定期間経ていることが妊娠容認基準としました。なお、妊娠禁忌薬の中止について、メトトレキサートは中止後1カ月で妊娠が容認されるとしています。
また、各疾患と不妊症との関連性(CQ3)について、指針では「それぞれの疾患が寛解状態であれば、関連性は低い」と表記。妊娠中や産褥期での症状への影響(CQ4)では、SLEは妊娠中・産褥期に病態が悪化する可能性があるとし、RAは妊娠中に寛解する場合と増悪する場合があり、産褥期に再燃することが多い、としています。
一方、指針で妊娠・出産後の妊婦に直接関係がある項目としては、妊娠中の薬剤で禁忌であるものと、安全性が示されているもの(CQ9)、薬剤使用中の授乳について(CQ11)について記述しています。
妊娠中の薬剤について村川先生は「メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチルはヒトで催奇形性(新生児での奇形の危険性)、レフルノミド、ミゾリビンは動物実験で催奇形性が示されていることからいずれも禁忌」と述べ、その一方で現時点で催奇形性が示されていないサラゾスルファピリジン、メルカプトプリン、ヒドロキシクロロキン、抗TNFα抗体製剤の投与は許容される、と説明しました。また、妊娠中の降圧薬としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は胎児・新生児の死亡に関連するとの報告があるため禁忌で、使用できる降圧薬としてはヒドララジン、α-メチルドパ、ラベタロールとしています。
また、授乳についてはメトトレキセート、レフルノミド服用中の授乳は許容できないのに対し、降圧薬のARB、ACE阻害薬、TNFα抗体製剤の服用中の授乳は許容できると述べました。分娩方法については(CQ7)、「通常の分娩管理(帝王切開ではない)で良い」とし、特殊な場合を除き、帝王切開の適応も健常女性の妊娠時と変わらないとしています。生後の新生児のケアについて留意すべきこと(CQ8)については「抗SS-A抗体を有するSLE合併妊娠・RA合併妊娠では、新生児ループスに留意する」とし、生物学的製剤使用時の注意点は(CQ10)では、母体が妊娠中に生物学的製剤(抗体製剤)の影響が生後数か月残存している可能性があるため、「新生児での生ワクチン(BCG、ロタウイルス)の接種において注意が必要」とし、その期間については生後6か月までとしています。