「甲状腺眼症」(こうじょうせんがんしょう)について
6月20日(木)、アムジェン株式会社主催のメディアラウンドテーブルで、甲状腺眼症(TED)の現状と治療方法について、伊藤病院 内科部長 渡邊 奈津子氏、オリンピア眼科病院 副院長 神前 あい氏、それぞれの診療科の立場で講演をお聞きしました。
甲状腺眼症は、国内患者数は約35,000人と推定され、多くの場合、バセドウ病に伴って発症し、眼球突出や複視などが引き起こされます。現在の治療法はステロイド治療と放射線療法などがあります。
プログラム内容
講演1「甲状腺眼症の基礎」 渡邊 奈津子先生(伊藤病院 内科部長)
講演2「甲状腺眼症の臨床経過」神前 あい先生(オリンピア眼科病院 副院長)
甲状腺の機能
甲状腺は、首の前方、喉のすぐ下にある内分泌器官で蝶が羽を広げたような形の臓器です。この臓器は、下垂体の指令により甲状腺ホルモンを分泌し、全身の細胞の新陳代謝を活発にすることで、交感神経の刺激、成長や発達を促します。
参考:伊藤病院 甲状腺の役割
https://www.ito-hospital.jp/02_thyroid_disease/02_2function_of_thyroid.html
甲状腺眼症
国内の現状
- ・甲状腺眼症は、厚生労働省が定める指定難病には指定されていませんが、日本における患者数が約35,000人と推定される自己免疫性の希少疾患です。
- ・日本における発症率は人口10万人あたり7.3人(男性3.6:女性13.0)で女性のほうが多い傾向があります。
原因と症状
- ・多くは免疫の異常によって甲状腺ホルモンが過剰に合成、分泌されるバセドウ病に伴ってみられますが、甲状腺に慢性的炎症が生じる橋本病に伴って発症することがあります。
- ・眼球の周囲にある脂肪や目を動かす筋肉(外眼筋)に存在する受容体(TSH受容体やGF-1受容体)が標的となって「炎症」が引き起こされ、脂肪組織や外眼筋の肥大といったさまざまな眼症状が引き起こされます。
- ・主な症状は、眼球突出、ドライアイ、複視、斜視、眼瞼浮腫、上眼瞼後退などがあり、患者さんの日常生活やQOLに影響が出ることがあります。
診断基準
- ・診断基準は、①自己免疫性甲状腺疾患、②眼症候、③画像診断による眼球突出、外眼筋の腫大などで、①+②または③を有する場合を甲状腺眼症と診断します。 ②または③の症状があっても、①が診断できない場合は甲状腺眼症疑いとします。
- ・甲状腺眼症はバセドウ病と同時期に診断されることが多いのですが、甲状腺の機能が異常になる前に甲状腺眼症の症状が出ることや、甲状腺眼症が発症した後に甲状腺異常が見つかるときもあるため、内科や眼科の専門医を受診することが重要です。
治療方法
- ・バセドウ病や橋本病の治療を行っても、眼の治療に関しては別の治療が必要であり、どの程度目の症状が残るかによって治療法が異なります。
- ・治療方針は、重症度によって異なりますが、最重症の場合は、ステロイド・パルス療法を行います。実施後、眼科診察を行い2週間改善が認められない場合は眼窩減圧術を考慮します。視神経症の回復に伴い、複視が出現する際は、パルス療法と放射線外照両方を併用し、眼科機能回復手術を行う場合もあります。
- ・中等症から重症例は活動性であれば、免疫抑制療法や放射線外照の両方を選択し、非活動性であれば眼科的な機能回復手術の適応となります。
現在、甲状腺眼症は治療法が限定されており、効果が得られないことがあります。その場合、眼科機能回復手術が必要となり、患者さんの負担が大きくなることがあります。
今後、新たな治療法が多くの患者さんに待ち望まれております。
参照:
甲状腺眼症診療の手引き Digest 版
https://www.j-endo.jp/uploads/files/edu/koujyousengansyo_digest.pdf
バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第3次案)(日本内分泌学会)(日本甲状腺学会)
アムジェン株式会社 プレスリリース
https://www.amgen.co.jp/media/news-releases/20240116
NPO法人難病ネットワーク(Nnet) 恒川信一