筋萎縮性側索硬化症(ALS)診断の新規バイオマーカーを発見、新たな治療法開発に繋がる可能性
広島大学は5月24日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんではALS診断基準を満たす以前から、骨格筋内にある筋内神経束にALSの病態において重要なタンパク質「TDP-43」が異常に蓄積することを明らかにしたと発表しました。
この研究成果は、同大大学院医系科学研究科の丸山博文教授、国立病院機構呉医療センター脳神経内科(広島大学原爆放射線医科学研究所)の倉重毅志医師、徳島大学大学院医歯薬学研究部の森野豊之教授(2021年5月まで広島大学在籍)、和泉唯信教授らの研究グループによるもの。医学誌「JAMA Neurology」に5月23日付で掲載されています。
ALSは、手足や喉などの筋肉や呼吸に必要な筋力が低下する進行性の病気であり、個人差はあるものの、人工呼吸器を装着しなかった場合、2~5年で死に至る恐れがあります。がんのように生前に病理診断をする方法はなく、問診・視診・触診・筋電図検査・MRIなどの画像検査を組み合わせて診断することはできますが、現時点でALS早期に診断する確実な方法はありません。ALSの治療薬には、経口薬であるリルゾール、点滴注射薬であるエダラボンが使われていますが、効果は限定的であるため、早期発見が治療、ケアのために重要です。
ALSの患者さんでは、筋力の低下、しゃべりにくさ、飲み込みにくさなどが初期症状として現れます。筋力低下はALSの重要な症状となるため、今回の研究では、脊髄の運動ニューロンの突起である筋内神経や、それと接合する骨格筋にもALS特有の異常があると考え、剖検・生検症例の骨格筋を解析。その結果、ALS患者さんでは病初期から骨格筋内の筋内神経束にTDP-43が蓄積することを発見したそうです。
今回の研究成果から、TDP-43はALS早期診断のための有用な診断バイオマーカーであると考えられます。研究グループはプレスリリースにて、「末梢神経の一部である筋内神経束の異常が明らかになったことから、末梢神経でのTDP-43凝集による障害を阻害するALSの新しい治療法開発につながる可能性があります」と述べています。