神経ネットワーク形成に必要な“糊”の構造を初観測、多発性硬化症やパーキンソン病などの研究応用に期待
広島大学は6月16日、神経ネットワークの形成に寄与するミエリン塩基性タンパク質(MBP)の膜結合部位を同定し、その分子構造を明らかにしたと発表しました。
この研究成果は、同大大学院理学研究科の熊代宗弘大学院生、同放射光科学研究センター(HiSOR)の松尾光一准教授、泉雄大助教(現:量子科学技術研究開発機構)によるもので、米科学誌「PROTEINS: Structure, Function, and Bioinfomatics」に5月16日付でオンライン掲載されました。
MBPは、神経ネットワークの構築に必要な生体膜の多層構造体である「ミエリン鞘」を安定化させる“糊”の役割を担っており、神経細胞軸索を取り囲むミエリン鞘が形成される際に重要な役割を持つ膜結合タンパク質のひとつです。
その分子構造の解明は、ミエリン鞘の形成メカニズムの理解に寄与すると期待されるそうです。しかし、これまでにさまざまな研究手法や条件下でMBPの膜結合構造を解明する研究が行われてきましたが、その膜結合構造や膜結合機構は未だ明らかになっていませんでした。
今回、研究グループは、「真空紫外円二色性分光法」と「分子動力学(MD)法」を組み合わせた新しい計測手法により、MBPの膜結合部位とその分子構造や膜結合機構を明らかにすることに成功。この研究手法は、MBPのような膜結合タンパク質が関連するさまざまな生命現象の研究、とくに多発性硬化症やパーキンソン病などの疾患の研究に応用が可能であると期待されるそうです。
研究グループはプレスリリースにて、「本研究アプローチは、これまで解析が困難であった膜結合タンパク質が関連する細胞内への物質輸送などの様々な生命現象への理解を深めるだけでなく、多発硬化症やパーキンソン病などの疾病メカニズムの基礎を解明し、その治療戦略に貢献することも期待されます」と述べています。
出典元
広島大学 プレスリリース