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炎症性腸疾患(IBD)患者特有の腸内細菌叢、機能代謝遺伝子叢、抗生剤耐性遺伝子叢、腸内ファージ叢、腸内真菌叢を同定、世界共通性を発⾒

東京医科大学と筑波大学と国立国際医療研究センターの研究グループは11月29日、潰瘍性大腸炎およびクローン病患者さんに特有の腸内細菌叢、機能代謝遺伝子叢、抗生剤耐性遺伝子叢などからなるマルチバイオームを同定したと発表しました。また、世界4カ国のショットガンメタゲノムデータを解析し、日本人の炎症性腸疾患(IBD)患者さんに特有のマルチバイオームの特徴が、世界のデータにも共通して確認できることを発見しました。

炎症性腸疾患(IBD)は、腸に炎症が起き、腹痛や下痢などの症状が現れる疾患で、主に潰瘍性大腸炎(UC、指定難病97)とクローン病(CD、指定難病96)のことを指します。若年層に発症することが多い疾患です。原因が不明なため完治は困難であり、手術による腸管切除を余儀なくされる患者さんが多数存在します。

これまでの炎症性腸疾患(IBD)研究では、腸内細菌叢に着目した解析が中心的であり、炎症性腸疾患(IBD)患者さんでは、腸内細菌叢の乱れや特定の腸内細菌種の変化が確認されております。しかし、腸内細菌種以外の微生物やそれらが有する機能代謝遺伝子がどのように相互作用し、炎症性腸疾患(IBD)の病態形成に関与しているかは分かっておりませんでした。

今回、研究グループは、潰瘍性大腸炎(UC)患者さん111人、クローン病(CD)患者さん31人、健常者540人を抽出し、糞便ショットガンメタゲノムシークエンス解析を実施しました。その結果、腸内細菌4,364種(種レベル)、機能代謝遺伝子(KEGG)10,689個、抗生剤耐性遺伝子403個、ファージ1,347種、真菌90種を同定しました。健常者と比較して、日本人炎症性腸疾患(IBD)患者さんでは、Bifidobacterium(B.breve、B. longum、B. dentium)、Enterococcus(E. faecium、E. faecalis)、Sterprococcus salivarius などが増加し、Faecalibacterium prausnitziiなどの短鎖脂肪酸産生菌の低下が確認されました。クローン病(CD)患者さんでは、Escherichia coliが増加しており、この菌種が抗生剤耐性遺伝子や接着性浸潤性大腸菌(AIEC)の病原性遺伝子を複数獲得していることも示しました。また、日本人の炎症性腸疾患(IBD)患者さんにおける腸内細菌叢の変動は、米国、スペイン、オランダ、中国の炎症性腸疾患(IBD)患者さんと類似しており、特に、全てのクローン病(CD)コホートに共通して、Escherichia coliが増加していることを発見しました。

次に、炎症性腸疾患(IBD)患者さんの腸内に生息するファージを評価しました。その結果、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)で減少することが確認された短鎖脂肪酸産生菌に感染するファージが減少していました。また、クローン病(CD)患者さんで増加することが確認された Escherichiaに感染するファージ種(vOTU77、vOTU89、vOTU90)が、クローン病(CD)で顕著に増加することも確認されました。

画像はリリースより

腸内の真菌叢についても網羅的解析を行いました。その結果、潰瘍性大腸炎(UC)患者さんにおいて、Saccharomyces paradoxusとSaccharomyces kudriavzeviiが増加し、クローン病(CD)患者さんでは、Saccharomyces cerevisiaeとDebayomyces hanseniiが増加することを発見しました。米国、スペインのクローン病(CD)患者さんでは、Saccharomyces cerevisiaeが増加していることを確認しました。潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)では、腸内細菌やファージだけでなく、真菌も含むマルチバイオームの特徴が異なることがわかりました。

画像はリリースより

最後に、細菌、ファージ、真菌間の相互作用を調査するため、細菌、ウイルス、真菌種の相関ネットワークを構築しました。その結果、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病(CD)ともに、短鎖脂肪酸産生菌がクラスターを形成していることを明らかにしました。また、潰瘍性大腸炎(UC)患者さんではRuminococcus bromiiやFusicatenibacter saccharivorans、クローン病(CD)患者さんではEscherichia coli、Bacteroides thetaiotaomicron、Anaerostipes hadrusなどの細菌が、それらに感染するファージと正の相関することが確認されました。クローン病(CD)患者さんでの増加が確認されている Escherichia coli とSaccharomyces cerevisiaeは、Eubacterium ventriosum、Anaerostipes hadrus、Blautia obeumなどの短鎖脂肪酸産生菌と負の相関を示しました。

画像はリリースより

以上の研究成果より、今回同定した潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)に関連する腸内細菌、ファージ、真菌の特徴は、日本人に限らず、世界の炎症性腸疾患(IBD)患者さんに共通することがわかりました。このことから、日本と世界で共通する炎症性腸疾患(IBD)関連のヒト微生物種を同定したことになります。この結果は、微生物種を介した病態解明の研究を加速させるだけでなく、微生物種とそれらの相互作用をターゲットとした診断や治療法の開発が、国や地域に依存せず広く適用できる可能性を示唆しており、重要な基盤知見を提供したとしていえます。

なお、同研究の成果は、「Nature Communications」オンライン版に11月27日付で掲載されました。

出典
東京医科大学 プレスリリース

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