視神経脊髄炎(NMO)の炎症を正負に制御する免疫ダイナミクスを世界で初めて発見
新潟大学は4月26日、京都府立医科大学、信州大学、関西医科大学、新潟医療福祉大学、まつもと医療センターなどとの共同研究により、指定難病「視神経脊髄炎(NMO)」において、ステージ依存性に炎症を正負に制御する免疫ダイナミクスを明らかにしたと発表しました。
視神経脊髄炎(指定難病13)は、免疫系の異常により、中枢神経(脳・脊髄)や視神経に炎症が起こり、視力障害、脊髄炎による運動麻痺、排尿障害、感覚障害などが現れる自己免疫疾患です。20歳台~40歳台で発症することが多く、患者数は世界で250万⼈、⽇本で1万8千⼈であり、近年増加傾向にあります。
近年の研究では、視神経脊髄炎(NMO)の標的⾃⼰抗原はアクアポリン4(AQP4)⽔チャネルであることが明らかになっています。2013年より、⾎液のAQP4⾃⼰抗体を測定することで、視神経脊髄炎(NMO)の診断が可能となりました。さらに、視神経脊髄炎(NMO)に対する5種類の免疫制御治療が開発され、異常な免疫因⼦をある程度、制御することが可能となりましたが、⾃⼰抗体以外の免疫動態は不明なままです。現在、神経を完全に保護する治療法は開発されていません。
今回の共同研究では、指定難病である視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)を持つ患者さんの神経組織を使⽤して、ステージ(病期)ごとに浸潤する免疫細胞を病理学的⼿法で包括的に解析しました。
その結果、世界で初めて、次の(a)〜(g)を明らかにしました。
(a)視神経脊髄炎(NMO)の初期・早期活動性病変には、細胞外DNAトラップ(NETs)を⽰唆するシトルリン化ヒストンを持つ活性化好中球が集積する。
(b)視神経脊髄炎(NMO)の初期・早期活動性病変には、インターロイキン(IL)-17を産⽣する能⼒を持つTH17/TC17が集積する。
(c)視神経脊髄炎(NMO)の病変の⼤きさは、NETsを⽰唆するシトルリン化ヒストン陽性シグナル数やTH17/TC17と、正に相関する。以上から、NETsを伴う活性化した好中球やTH17/TC17は視神経脊髄炎(NMO)の病変拡⼤に寄与する可能性が想定される。
(d)視神経脊髄炎(NMO)にはステージ(病期)と関係なく、常にCD103+組織常在性記憶T細胞(TRM)が存在する。特に、初期・早期活動性病変には、細胞傷害性顆粒グランザイムを発現した病原性TRMが顕著となる。以上から、TRMは再発を引き起こすトリガーが作動すると、「細胞傷害性顆粒グランザイムを発現した病原性TRM」に変化することで活動性病変を引き起こす可能性が想定される。
(e)視神経脊髄炎(NMO)の活動性病変には、炎症を制御する⼒を持つ調節性FOXP3+Tregが集積する。
(f)(a)〜(e)のプロセスは、ステージ(病期)依存的に進⾏し、視神経脊髄炎(NMO)の免疫ダイナミクスを形成する。
(g)視神経脊髄炎(NMO)の免疫ダイナミクスを制御(好中球、TH17/TC17、TRMの活性化抑⽌と、FOXP3+Tregの増幅)することで、再発を抑⽌し、神経を保護する新たな治療法の開発が期待される。
以上の研究成果より、視神経脊髄炎(NMO)の免疫病態をステージ(病期)ごとに理解することが可能となり、発作・再発を予測することが可能な⾎液バイオマーカーを開発できる可能性があります。血液検査で、発作・再発の予測を捉えることが可能になると、疾患修飾薬(DMTs)の切り替えを含めた適切な治療法を選択することが可能となります。さらに、視神経脊髄炎(NMO)において免疫ダイナミクスを制御する新たな薬剤を開発できれば、視神経脊髄炎(NMO)の発作・再発抑⽌や神経保護に有効である可能性が想定され、患者さんのQOL(生活の質)向上が期待されるといいます。
なお、同研究の成果は、神経病理学分野のトップジャーナル誌「Acta Neuropathologica」オンライン版に4月24日付で掲載されました。