遺伝子の転写やDNA修復に重要な転写因子の動的構造モデルの作成に成功
横浜市立大の研究グループは遺伝子の転写反応やDNAの修復反応に必須な転写因子であるTFIIH複合体の動的構造のモデル化に成功したことを発表しました。さらに、がん抑制因子p53やDNA修復因子XPCなどとTFIIHとのドッキング構造モデルを構築しました。このモデルを用いることで色素性乾皮症やコケイン症といった遺伝性難病の発症原因解明や治療法開発にも繋がると期待されています。
遺伝情報が格納されているゲノム配列は紫外線や薬剤などの外的要因、および代謝産物などの内的要因により絶えずダメージを受けています。一方で、DNAには元来より傷の修復機能が備わっており絶えず修復が行われているため我々は健康を保てています。遺伝情報の読み取りやDNAの修復には数多くのタンパク質が関与しており、それらは相互に作用しながら反応が進みます。この相互作用のうちどこか1カ所に異常が見られた場合、その後の一連の流れが妨げられる場合もあり、場合によっては死に至る可能性もあります。DNAの修復に関わる複数のタンパク質の相互作用における一つ一つの反応を理解することは、疾患の理解や予防法解明にも繋がると期待されています。
タンパク質の相互作用の理解には、個々のタンパク質の立体構造の理解が重要です。研究グループは遺伝情報の読み出しに必要な転写因子TFIH複合体に着目し、NMR法によりその動的構造のモデル化に成功しました。過去に得られているクライオ電子顕微鏡のデータと合わせることでTFIIH複合体の動的な構造モデルの構築できました。また、基本転写因子 TFIIEα、癌抑制因子 p53、 など複数の因子とのドッキング構造について、スーパーコンピューターを用いて精密化を行いました。この構造モデルを活用し、色素性乾皮症やコケイン症などの遺伝性難病の発症メカニズムや異常発生過程の理解に繋がると期待されており、さらに治療薬の開発にも役立てられると考えられています。