成人大脳型副腎白質ジストロフィーへの造血幹細胞移植、顕著な治療効果を確認
東京大学医学部附属病院は1月15日、成人大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植の治療効果を明らかにする研究を行い、その結果を発表しました。この研究成果は、同院22世紀医療センター分子神経学講座の辻省次特任教授ら研究グループによるものです。
指定難病に登録されている神経難病である副腎白質ジストロフィーは、国内の患者数が400人程度と推定されます。同症のひとつである大脳型副腎白質ジストロフィーは、小児科領域でよくみられる疾患であり、小児期の大脳型に対しては、発症早期の造血幹細胞移植が有効であるとされています。
一方、成人の大脳型は、比較的頻度の高い臨床病型ですが、造血幹細胞移植の報告例は少なく、その治療効果はさまざまです。成人の大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植の治療効果は、確立されていませんでした。
今回研究グループは、成人大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植の治療効果を明らかにするため、12症例に対して移植を実施。長期間の観察に基づき、治療効果を評価しました。
その結果、治療効果は顕著であり、症状の進行を抑制できることが示されたそうです。つまり、早期に診断して早期に造血幹細胞移植を行うことで、病状の進行を止める事が可能となるとしています。
今回、造血幹細胞移植を実施した12症例と実施できなかった8症例について、大脳・小脳などの病変の出現時点を起点に生存率を比較すると、造血幹細胞移植を行った症例では全員生存しており、有意に生存率が高いという結果が得られました。
研究グループはプレスリリースで、「診療現場では、診断が遅れ、治療のタイミングを逸してしまうケースが少なくなく、本症の早期診断が大切であることを広く認識していただくことが大切であると考えられます」と述べています。
副腎白質ジストロフィー
副腎白質ジストロフィーは指定難病の1つであり、X染色体上のABCD1遺伝子上の変異によって発症するX連鎖性の神経疾患で、副腎不全を伴うこともあります。発症年齢は小児期から成人までと幅広く、多彩な臨床病型を呈することが特徴です。大脳、小脳などに脱髄が生じ、比較的急速に拡大する予後不良の病型、緩徐な痙性歩行を示す病型(副腎脊髄ニューロパチー)、副腎不全症状のみを呈する病型などさまざまな病型があります。
造血幹細胞移植
造血幹細胞は、骨の中心にある骨髄や、胎児と母親をつなぐ臍帯にある臍帯血の中に存在し、血液中の細胞成分である白血球、赤血球、血小板のもととなる細胞。造血幹細胞移植では、患者さんの免疫を抑えるために大量の化学療法や全身への放射線療法を用いた前処置を行い、ドナーから提供された造血幹細胞を点滴で患者さんに投与します。