ネフロン癆の病態を解明、iPS創薬により新規治療薬候補の抽出に成功
東京科学大学は9月19日、指定難病である遺伝性腎疾患「ネフロン癆(ろう)」の病態解明を進め、ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイドモデルを構築し、新規治療薬候補の抽出に成功したと発表しました。
ネフロン癆(指定難病335)は、腎臓の尿細管細胞の機能異常により腎臓が線維化し、腎機能が低下する疾患です。小児の末期腎不全の5~10%を占める重要な疾患である一方、成人の慢性腎臓病の原因としても近年注目されています。これまでに数十種類の原因遺伝子が同定されていますが、最も多いのはNPHP1遺伝子の変異によるものです。しかし、これまで有効な治療法は見つかっておらず、人工透析や腎移植といった腎代替療法を避けることが難しいのが現状です。
遺伝性疾患であるネフロン癆の病態を動物モデルで再現することが難しかったため、研究チームは遺伝子改変技術を用いてネフロン癆の主要原因遺伝子であるNPHP1を完全に欠損させたヒトiPS細胞株を作製。さらにこのiPS細胞から、ミニチュア腎臓である「3次元腎オルガノイド」を分化誘導し、ヒト細胞による疾患モデルを確立しました。
このNPHP1欠損腎オルガノイドを解析した結果、遺伝子変異のない正常なオルガノイドと比較して早期に線維化が惹起されることが明らかになりました。また、線維化の進行とともに、Hippoシグナル経路下流遺伝子の転写活性が異常に亢進していることが判明しました。この結果から、Hippoシグナルが腎線維化の進行に関与していることが示されました。
さらに、研究チームはHippoシグナルを阻害する薬剤をNPHP1欠損腎オルガノイドに投与し、線維化が抑制されるかを検討しました。その結果、複数のHippoシグナル阻害剤で線維化が有意に抑制され、これらの薬剤がネフロン癆の新たな治療薬候補となりうることが示唆されました。これらの薬剤の中には、既に他の疾患の治療に臨床使用されているものも含まれています。
以上の研究成果より、NPHP1欠損ネフロン癆においてHippoシグナルが線維化の進展に関与すること、そしてHippoシグナル阻害剤が治療薬候補となることを世界で初めて明らかになりました。同成果は、これまで有効な治療法が存在しなかったネフロン癆研究に大きな意義を持つ報告であり、研究グループは、既に臨床で利用されている薬剤の有効性が確認されれば、早期の社会実装につながる可能性があるとしています。

なお、同研究の成果は、「Stem Cell Research & Therapy」に9月19日付で掲載されました。