ループス腎炎の治療に使われる新規免疫抑制剤ボクロスポリンの副作用の要因を解明
徳島大学は5月23日、新規免疫抑制剤のボクロスポリン(英語名:Voclosporin、商品名:ルプキネス)の副作用のうち、急性腎障害時に、腎臓に目玉様異常構造ペルオキシソームが出現することをマウスモデルとヒト腎生検検体で発見したと発表しました。また、この異常なペルオキシソーム出現の原因となる毒性インドール物質も同定し、その要因を解明。さらに、この毒物除去体も発見し、目玉様異常ペルオキシソームの除去にも成功しました。
カルシニューリン阻害剤(CNI)は、臓器移植における拒絶反応や全身性エリテマトーデス(SLE)に伴うループス腎炎、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患などの膠原病・自己免疫疾患の治療に広く用いられる免疫抑制剤です。既存のCNIにはCyclosporin Aやタクロリムスがあり、近年、ボクロスポリンが新たなCNIとして欧米に続き日本でもループス腎炎治療薬として承認されました。
これらのCNIには、副作用としてCNI腎症が生じることが知られています。
研究グループは、ボクロスポリンによる急性腎障害(Voc腎症)モデルの開発に成功。続いて、Voc腎症で、「腎 bulk RNA sequence」という解析を施行したところ、尿毒素の一種のインドール物質であるIAAが上昇し、分解酵素であるINMTが優意に低下することを解明しました。INMTはトリプトファン代謝に関わる酵素のひとつで、INMT が低下すると尿毒素IAAが増えることから、INMTの低下をVoc腎症の早期診断マーカーとして確立し、INMTを活性化させる物質や薬剤などの開発により、世界初のVoc腎症の治療開発が実現できる可能性を見出したとしています。


INMTが低下(IAAが上昇)するVoc腎症マウス、INMTノックアウトマウス、およびヒトVoc腎症のいずれにおいても、電子顕微鏡による観察で内部が黒色に見える目玉様異常ペルオキシソームを検出しました。この目玉様ペルオキシソームの形態異常が機能異常も併発し、毒性ペルオキシソームとしてVoc腎症の病原性の本体をなすことを証明しました。

この異常なペルオキシソームが出現すると、ペルオキシソームの機能が低下し、ミトコンドリアにも異常が波及してミトコンドリアの機能も低下することが示されました。これにより、ATP産生という細胞内のエネルギー産生が極度に低下し、腎臓で一気に障害が進行することが、ボクロスポリン腎症の正体であると見出されました。ボクロスポリン腎症は、ペルオキシソーム障害からミトコンドリア障害へとドミノ式に細胞内の内部障害が進行する実態が明らかにされました。

以上の研究成果より、この毒性インドールIAAの除去効果が重要であることを見出しました。具体的には、Voc腎症を来したマウスに、尿細管のみにINMTを過剰発現させたところ、毒性ペルオキシソームの消失、腎機能低下の抑制、および蛋白尿の低下効果が認められました。
この成果は、INMTの活性化をもたらす薬剤などの開発が、ボクロスポリンによる腎障害を長期的に抑えることを可能にする治療手段への手がかりとなる可能性を示しています。今回の研究成果は、今後ボクロスポリンが他の腎疾患、臓器移植、膠原病、クローン病などの自己免疫疾患にも広く使用される可能性がある中で、その副作用の発症や進行を抑えることで、慢性腎臓病や透析患者の増加を抑制する大きな成果につながる可能性が期待されます。
なお、同研究の成果は、「Journal of the American Society of Nephrology(JASN)」に5月21日付で掲載されました。