下位運動ニューロン誘導法開発とシングルセル評価法を開発、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の症状の早期発見や治療開発に期待
東京大学と慶應義塾大学の共同研究グループは12月20日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究において、人工多能性幹細胞(iPSC)からの効率的な下位運動ニューロン誘導法を開発したと発表しました。
筋萎縮性側索硬化症(指定難病2、ALS)は、手足・のど・舌など筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく疾患です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態メカニズムは未だ解明されていないため、治療法の確立には時間がかかっています。
近年、iPS細胞を用いた研究は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の疾患理解や薬剤スクリーニングにおいて大きな可能性を示していますが、疾患研究、薬剤スクリーニングの多くは、主に、家族性筋萎縮性側索硬化症(家族性ALS)に特徴的な特定の遺伝的異常を持つ細胞を用いた研究に限られていました。そのため、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんの9割を占め、疾患の多様性に富む孤発性筋萎縮性側索硬化症(孤発性ALS)へのアプローチは、あまりなされていないという問題がありました。
今回、共同研究グループは、iPS細胞から脊髄型の下位運動ニューロンを迅速かつ高効率で誘導する方法を開発。さらにAI画像解析技術を用いた疾患表現型の簡便かつ再現性の高い評価法を開発しました。
研究グループが開発した新しい高効率な下位運動ニューロン誘導法。これは、従来法と比較して短期間で効率的に分化を達成し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)病態の解明や薬剤スクリーニングへの応用が期待されます。また、遺伝性筋萎縮性側索硬化症(遺伝性ALS)患者由来のiPS細胞から誘導した下位運動ニューロンにおいて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)特有の病態を再現し、同研究の手法が筋萎縮性側索硬化症(ALS)研究に適したモデルであることが示されたといいます。
次に、MEA(マルチ電極アレイ)システムを用いて、誘導した下位運動ニューロンで成熟したニューロンと同様の発火活動やネットワーク活動を確認することができました。また、経時的なライブイメージングとシングルセル追跡技術、およびAI画像解析技術を活用し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来下位運動ニューロンが健康な細胞に比べて生存率が低い傾向にあることが示されました。この技術は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来細胞ごとの細胞脆弱性を評価するための有望なツールであるとしています。
以上の研究成果より、下位運動ニューロン誘導法を用いて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)特有の症状の早期発見や、患者ごとの異なる病態に対応した個別化医療の実現に向けた研究が進むと考えられます。また、病態の異なる筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来のiPS細胞株を用いた大規模な研究や、シングルセル追跡技術とオミクス解析を組み合わせた単一細胞レベルでの詳細な研究に応用されることで、複雑な病態をもつ筋萎縮性側索硬化症(ALS)の疾患理解が進むことが期待されます。さらに、同手法は、他の神経変性疾患のモデル構築や創薬研究にも応用可能であり、神経疾患全般の治療法開発への貢献が期待できるとしています。
なお、同研究の成果は、「Stem Cell Reports」オンライン版に12月19日付で掲載されました。