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全身性エリテマトーデス(SLE)の発症・増悪に関わる遺伝子発現異常を同定

理化学研究所と東京大学の共同研究グループは8月23日、全身性エリテマトーデス(SLE)の病態に関わる免疫細胞の遺伝子発現異常を多数同定したと発表しました。

全身性エリテマトーデス(指定難病49)は、免疫系の異常により、自己の細胞や臓器を攻撃する自己免疫疾患のひとつです。発症すると寛解と増悪を繰り返し、治癒することが困難な疾患です。全身性エリテマトーデス(SLE)には多くの遺伝子が疾患の病態に関与し、また血液中の多様な免疫細胞が複雑に病態成立に関与し、疾患活動性や臓器症状(皮膚・関節・腎障害など)が患者ごとに大きく異なることなどの理由から疾患の病態理解が進まず、効果的な治療薬があまり多く開発されていません。

今回の研究では、さまざまな症状の全身性エリテマトーデス(SLE)患者さんの血液から細胞集団を細かく分けて、それぞれの症状を特徴付ける遺伝子発現パターンを調べることで、全身性エリテマトーデス(SLE)の複雑な病態メカニズムを詳細に解明することを目指しました。

今回、共同研究グループは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者さん136例と健常人89例から27種に及ぶ免疫細胞6,386サンプルをセルソーターで分取し、RNAシーケンスで遺伝子発現量を網羅的に調べる過去最大規模の解析を実施。あらゆる疾患活動性の患者さんが参加したことで、大きく2つのタイプの遺伝子発現パターンを定義することができました。

画像はリリースより

1つは、寛解状態にある非活動性の全身性エリテマトーデス(SLE)患者群と健常人を比較した発現変動遺伝子からなる「疾患状態シグネチャー」と呼ばれるタイプであり、疾患の発症に関わる遺伝子群を反映します。もう1つは高疾患活動性と非活動性の全身性エリテマトーデス(SLE)患者群を比較した発現変動遺伝子からなる「疾患活動性シグネチャー」と呼ばれるタイプであり、疾患の増悪に関わる遺伝子群を反映します。27の細胞種それぞれで解析を行い、疾患状態シグネチャー、疾患活動性シグネチャーともに1細胞種当たりおよそ2,000の発現変動遺伝子を同定しました。

細胞種ごとに疾患状態シグネチャーと疾患活動性シグネチャーを比較した結果、多くの細胞で両者の遺伝子のメンバーが大きく異なることがわかりました。例として、免疫シグナルの担い手であるサイトカインをコードする遺伝子では、疾患状態シグネチャーと疾患活動性シグネチャーでそれぞれ異なるサイトカイン群が同定されたことから、全身性エリテマトーデス(SLE)の発症と増悪では異なる病態メカニズムが働いている可能性が高いことが判明しました。

画像はリリースより

次に、全身性エリテマトーデス(SLE)の臓器症状の多様性に注目し、それぞれの臓器症状でどの免疫細胞が活性化しているかを調べました。皮膚症状を持つ患者ではヘルパーT細胞の一種であるTh1細胞が、関節症状を持つ患者では単球系細胞が、腎症状を持つ患者では好中球系細胞の遺伝子発現パターンが最も強い関連を示し、それぞれの症状で異なる免疫細胞が活性化していることが示唆されました。

画像はリリースより

さらに、既存の全身性エリテマトーデス(SLE)治療薬がどの免疫細胞に作用しているのかを調査。その結果、ベリムマブ(製品名:ベンリスタ)治療前後の発現変動遺伝子はB細胞系細胞に集積し、ミコフェノール酸モフェチル内服者と非内服者の発現変動遺伝子はTh1細胞やメモリーCD8陽性T細胞、形質芽細胞に集積することが明らかになりました。

これらの治療薬で抑制された遺伝子群は疾患活動性シグネチャー遺伝子群と特に治療反応良好患者群でよく重複しており、現在の全身性エリテマトーデス(SLE)治療薬が疾患活動性シグネチャーを抑制することで、臨床的な効能を発揮していることが確認できたとしています。これらの結果から、今回同定された27の細胞種ごとの疾患活動性シグネチャーは、新たな全身性エリテマトーデス(SLE)の治療標的を探索する上でも有用である可能性が示されたとしています。

画像はリリースより

最後に、過去の大規模全身性エリテマトーデス(SLE)ゲノムワイド関連解析(GWAS)結果との統合解析を実施。その結果、ゲノム上の全身性エリテマトーデス(SLE)のリスク多型が疾患状態シグネチャー遺伝子群をコードする領域の周囲に多く存在する一方、疾患活動性シグネチャー遺伝子群の周囲にはあまり多く存在していないことがわかりました。

画像はリリースより

以上の研究成果より、今回同定した疾患活動性シグネチャーに含まれる遺伝子情報を基点に、病態メカニズムに即した形で新たな治療標的が開発されることが期待されるといいます。さらに、今後同一患者さんの遺伝子発現状態の推移を追う縦断的研究を行うことで、全身性エリテマトーデス(SLE)の予後や再燃を予測する目安となるバイオマーカーの同定につながる可能性があると期待されます。

なお、同研究の成果は、科学雑誌「Cell」オンライン版に8月22日付で掲載されました。

出典
理化学研究所 プレスリリース

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