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筋萎縮性側索硬化症の原因タンパク質TBK1の活性化メカニズムを解明

東京医科歯科大学は2月6日、名古屋大学、東京都医学総合研究所との共同研究により、筋萎縮性側索硬化症や緑内障の原因遺伝子産物であるOptineurinが損傷ミトコンドリアとオートファジー膜の接触部位に集積し、同じく筋萎縮性側索硬化症の原因タンパク質であるリン酸化酵素TBK1を活性化することで、損傷ミトコンドリアの分解を誘導することを発見したと発表しました。

生命の基本単位である細胞の中には複雑な膜系構造体(オルガネラ)が存在しており、オルガネラの一つであるミトコンドリアは、生命活動に必要なエネルギーの大部分を産生しています。しかし、ミトコンドリアは、エネルギー産生の代償として、ある一定の頻度で損傷を受けることで、「損傷ミトコンドリア」となり、細胞にとっては害となってしまいます。我々の細胞には、損傷ミトコンドリアを選択的かつ適切に排除するシステム(オートファジー)が存在していますが、このシステムが何らかの原因で機能しなくなると、パーキンソン病などの神経変性疾患を発症すると考えられています。

これまで研究グループは、遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子に注目して研究を開始し、損傷ミトコンドリアはユビキチン鎖で修飾され、オートファジーで選択的に分解されること、これによって細胞の恒常性が維持され、パーキンソン病の発症を抑えていることを明らかにしてきました。しかし、なぜ損傷ミトコンドリアの周辺のみでオートファジーの膜構造が出現・伸張するかについては不明点も多くありました。

画像はリリースより

研究グループは、まず初めに、筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子産物であるTank-binding kinase1(TBK1)に着目しました。TBK1は免疫系のシグナル制御分子であるとともに、損傷ミトコンドリアのオートファジー依存的分解にも重要なリン酸化酵素ですが、その機能を発揮するためには、自己リン酸化によって活性化する必要があります。実際、培養細胞において、ミトコンドリアの膜電位を消失させ、ミトコンドリアを人為的に損傷させると、TBK1は活性化し、損傷ミトコンドリアとともに速やかにオートファジーで分解されることがわかりました。さらに、TBK1の自己リン酸化は、筋萎縮性側索硬化症の原因となるアミノ変異によっても抑制され、損傷ミトコンドリアの分解が阻害されることが明らかになりました 。

画像はリリースより

次に、TBK1と相互作用し、同じく筋萎縮性側索硬化症の発症に関与するOptineurinに注目し、Optineurinのもつ「オートファジー駆動分子との相互作用ドメイン」を欠損させて調べました。その結果、Optineurinは損傷ミトコンドリアへとリクルートされるものの、オートファジー膜近傍への集積が阻害されること、そしてTBK1の活性化が減弱することがわかりました。さらに、TBK1の遺伝子欠損でも同様の結果が確認されました。つまり、TBK1の遺伝子を欠損させると、Optineurinの損傷ミトコンドリア周辺への集積が顕著に阻害されたことになります。これらの結果から、多分子のOptineurinが損傷ミトコンドリアとオートファジー膜の接触場を形成し、かつそこに集積することで、TBK1を互いに近接させ、TBK1の自己リン酸化を誘導していることが示唆されました

画像はリリースより

この仮説を検証するため、研究グループは、Optineurinに特異的に結合する人工抗体を開発しました。人工抗体を細胞に発現させると、Optineurinの損傷ミトコンドリアへの集積が阻害されるとともに、TBK1の活性化が阻害され、損傷ミトコンドリアの分解も阻害されることがわかりました。

画像はリリースより

以上の研究成果より、オートファジーによって損傷ミトコンドリアが選択的に分解される新しい仕組みが明らかになりました。また、損傷ミトコンドリアの分解により、TBK1が活性化することが明らかとなり、Optineurinが損傷ミトコンドリアとオートファジー膜との接触部位を形成する能力を利用して、複数のTBK1が一箇所に集積し、活性型へと変換されることを発見しました。このようなリン酸化酵素の活性化メカニズムはこれまでに知られておらず、新規の活性化機構です。

東京医科歯科大学は「損傷ミトコンドリアの選択的分解は、超高齢化社会を迎える日本において、健康寿命を考える上で非常に重要な課題です。また、世界中でも精力的に研究がなされています。本研究で得られた知見に基づき、パーキンソン病と筋萎縮性側索硬化症の発症機序・分子機構の共通点を見出し、引き続き、神経変性疾患の根幹に潜む分子機構の解明に取り組んでいきます」と述べています。

なお、同研究の成果は、『国際科学誌EMBO Journal』オンライン版に1月29日付で掲載されました。

出典
東京医科歯科大学 プレスリリース

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