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デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者さん由来のiPS細胞でジストロフィンタンパク質の回復を可能にするCRISPR-Cas3システムを開発

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月25日、CRISPR-Cas3システムをペアで利用することで、さまざまなデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さん由来のiPS細胞でジストロフィンタンパク質の発現を回復可能なマルチエクソンスキッピング(MES)を誘導する方法を開発したと発表しました。今回の開発は、より広範なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) 患者さんに対するゲノム編集治療の開発につながる可能性があると考えられています。

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、幼児期に発症し、運動機能の低下やふくらはぎの肥大化(太くなる)などの症状が現れる筋変性疾患です。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、筋細胞を維持するために重要な遺伝子であるジストロフィンのゲノム変異によりフレームシフトが起こり、ジストロフィンタンパク質が作られなくなります。遺伝子の変異パターンにはさまざまあり、これまで変異パターンごとにジストロフィンを回復させる方法が開発されてきましたが、ゲノムDNA上で数百kb(キロベース)にわたる標的エクソンを網羅するような大規模なDNA欠失を誘導する技術は限られていました。

今回の研究では、MESをゲノムDNAレベルで誘導するために、CRISPR-Cas9よりも大きなDNA欠失誘導が得意なCRISPR-Cas3システムのcrRNAをペアとして、ジストロフィン遺伝子のエクソン45-55領域(340kb~)を挟みこむことで、巨大なDNA欠失を誘導できることを明らかにしました。また、異なる変異を持つデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんを対象に、開発したMES誘導システムを用いて、iPS細胞においてジストロフィンタンパク質が回復することを実証しました。

さらに、全ゲノム解析を行ったところ、推定crRNA結合部位近傍の有意なオフターゲット欠失は検出されませんでした。

論文の概要
画像はリリースより

以上の研究成果より、デュアルCas3システムを利用することで、複数のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんから作成したiPS細胞において、意図しなかった欠失(オフターゲット効果)を起こすことなく、ジストロフィンタンパク質の発現を回復させることができました。しかし、回復したジスストロフィンタンパク質が、どの程度機能するのかは現在未確認です。

京都大学iPS細胞研究所(CiRA)はプレスリリースにて「デュアルCas3システムを使ってゲノム編集を行ったiPS細胞は、将来、DMD患者さんに対して自己細胞治療へと応用する際に重要な細胞源になることが期待できます。また、大規模に遺伝子を欠失させる技術は、基礎研究にも広く応用できると期待できます」と述べています。

なお、同研究の成果は、「Stem Cell Reports」に、8月25日付で掲載されました。

出典
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) プレスリリース

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