パーキンソン病の原因タンパク質αシヌクレインの新たな伝播様式が明らかに
東京医科歯科大学と東京都健康長寿医療センターの共同研究グループは8月17日、神経変性疾患であるパーキンソン病の原因タンパク質であるαシヌクレインの新たな伝播(拡散)様式を明らかにしたと発表しました。
パーキンソン病は、脳に異常が起こることで、振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害などの運動機能障害などが現れる神経変異疾患であり、日本には約20万人の患者さんがいます。また、パーキンソン病の特徴として、病理学的には脳の中の神経細胞の中にαシヌクレインというタンパク質が沈着・凝集することがあるといわれています。αシヌクレインは腸の神経細胞に発症早期から沈着・凝集することから、腸から脳にαシヌクレインが伝播していくのではないかという仮説(伝播仮説)があります。これまで、体の外でαシヌクレインの凝集体(PFF)を作成し、モデル動物に投与する方法で多くの研究が行われた結果、凝集物が神経細胞(ニューロン)から次のニューロンへ伝わるとの仮説を支持してきました。しかしながら、PFF以外の実験系での伝播に関する研究は極めてまれでした。
今回、研究グループは、マウスの脳内の狭い領域にAAVウィルスベクターを感染させて、特定の場所に長期間αシヌクレインを発現させるマウスモデルを作成して、αシヌクレインがどのように脳内で拡散するかを調査しました。
その結果、AAVウィルスベクター自体が、脳の離れた部位には伝わっていないことが確認できました。さらに、2週間後には感染領域から遠く離れた脳部位にαシヌクレインが広がっていること、拡散したαシヌクレインは凝集体ではなくモノマーであること、αシヌクレインは脳内リンパ系により拡散していること、遠位の脳神経細胞においてαシヌクレインはモノマー状態で取り込まれた後に凝集体を細胞内で形成することが示されました。この結果は、ウィルスベクターではない、蛍光標識したαシヌクレインの注入実験でも再確認できました。
以上の研究成果より、凝集状態の疾患タンパク質がニューロンからニューロンへと伝播するという様式のほかに、非凝集状態(モノマー状態)の疾患タンパク質が脳内リンパ系により離れた場所のニューロンへと伝播するという新たな様式が存在することが示されました。東京医科歯科大学は、今回の研究成果について「今後の治療を考える際に、特にプリオン様伝播をブロックする抗体や低分子などの薬剤開発において、今回の知見は非常に重要な研究成果と言えます」と述べています。
なお、同研究の成果は、国際科学誌「Cell Reports (IF=9.9)」オンライン版に、8月16日付で掲載されました。