PARK22/CHCHD2変異によるパーキンソン病の発症メカニズムを解明
東京医科歯科大学と順天堂大学は8月14日、PARK22/CHCHD2変異によるパーキンソン病の発症メカニズムを明らかにしたと発表しました。
パーキンソン病は、脳に異常が起こることで、振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害などの運動機能障害などが現れる神経変異疾患あり、パーキンソン病の発症には、中脳黒質ドーパミン作動性ニューロンの変性・脱落が関わっていると報告されています。孤発性のパーキンソン病がほとんどですが、SNCA(α-シヌクレイン)などの遺伝子変異による家族性パーキンソン病も存在し、近年、CHCHD2が、家族性パーキンソン病の原因遺伝子(PARK22)であり、孤発性パーキンソン病のリスク遺伝子となっていることが明らかになりました。しかし、これまでパーキンソン病の発症のメカニズムに関しては未知な部分が多く、根本的な治療開発には至っていませんでした。
今回、研究グループは、CHCHD2の最も多い疾患原因変異である61番目のスレオニンがイソロイシンに変化したT61I変異によるパーキンソン病の発症機序を明らかにしました。
マウス由来神経芽細胞腫Neuro2a細胞を神経分化させた場合、CHCHD2野生型(CHCHD2WT)は、ミトコンドリアに局在していますが、T61I変異型(CHCHD2T61I)は、一度ミトコンドリアに入った後、ミトコンドリア外に移動することを発見しました。この間違って局在したCHCHD2T61Iは、CK1ε/δをリクルートすることで、そのキナーゼ活性によりα-シヌクレインと神経フィラメント構成因子のリン酸化を引き起こし、結果として変性タンパク質の凝集体(アグリソーム)の形成を誘導しました。
さらに、マウスを使って解析を行なった結果、Chchd2T61Iノックインマウスおよびトランスジェニックマウスともに、ドーパミン作動性ニューロンにアグリソームが形成され、神経変性特有の歩行異常、運動機能障害が見られました。CK1ε/δ阻害剤であるPF-670462で細胞やマウスを処理すると、α-シヌクレインとNEFLのリン酸化を大幅に抑制することができました。また、PF-670462は、ドーパミン作動性ニューロンの細胞死を抑制し、Chchd2T61I変異ノックインマウスの握り行動や歩行異常などの神経変性表現型を改善させました。
今回の研究成果より、CK1ε/δがリン酸化α-シヌクレインを介して、CHCHD2T61I変異によるPDの病態に関与していることが明らかになりました。それを受けて、研究グループは、リリースにて「今後CK1の阻害剤がCHCHD2T61I変異によるパーキンソン病の治療法候補の一つとして挙げられることが期待できます。さらに、リン酸化α-シヌクレインは他の家族性もしくは孤発性パーキンソン病にも広く関与することがわかっているため、今回の結果はパーキンソン病全体の疾患の治療に繋がる可能性が期待できます」と今後の展望を述べています。
なお、同研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構などの支援のもとでおこなわれたもので、同研究の成果は、国際科学誌「EMBO Molecular Medicine」オンライン版に、8月14日付で掲載されました。