炎症性腸疾患における漢方「大建中湯」の大腸での働きをモデルマウスで解明
理化学研究所は6月2日、炎症性腸疾患(IBD)における漢方「大建中湯」の大腸での働きをマウスを用いて科学的に解明したと発表しました。
この研究成果は、同研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの石箏箏大学院生リサーチ・アソシエイト、佐藤尚子専任研究員、大野博司チームリーダーらの研究チームによるもの。オンライン科学雑誌「Frontiers in Immunology」6月2日付で掲載されています。
炎症性腸疾患の原因には、遺伝的な背景など以外に、食事の欧米化による腸内フローラ(腸内細菌叢)の影響も指摘されていますが、明確な要因は明らかになっていません。漢方は、一般的に薬局でも買える身近な薬である一方、臨床現場でも広く使用されています。
特に、大建中湯は消化管疾患の予防・治療のほか、大腸がん手術後の腸閉塞予防、炎症性腸疾患や集中治療中の患者さんの胃腸の働きを助ける目的でも使用されることがあります。しかし、これまでその作用のメカニズムは不明でした。
今回、研究チームは、炎症性腸疾患のモデルマウスにヒトに処方される量と等量の大建中湯(DKT)を経口投与し、大腸における腸内フローラの変化や産生される代謝物と免疫応答を解析。その結果、大建中湯が大腸において特定の腸内フローラの増加を促し、そのフローラにより産生される代謝物プロピオン酸が大腸上皮を介して免疫細胞のひとつである3型自然リンパ球(ILC3)に作用することで大腸を健全に保ち、炎症から腸管を保護するメカニズムが明らかになりました。
今回の成果について、研究グループはプレスリリースにて、「今回の発見により作用メカニズムを理解した上で大建中湯の効果を最大限に生かし、臨床所見に応じた適切な処方が可能になるものと期待できます」と述べています。