不良ミトコンドリアを可視化、パーキンソン病のメカニズム解明に期待
千葉大学は10月6日、パーキンソン病やがんの一因とされる「不良ミトコンドリア」を蛍光タンパク質によって可視化する「不良ミトコンドリアセンサー“MitoPain”」を開発したと発表しました。
この研究成果は、同大大学院理学研究院の板倉英祐准教授ら研究グループによるもので、米科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」に10月4日付で発表されました。
細胞内の細胞小器官のひとつ「ミトコンドリア」は、糖分や脂質からエネルギーを産生する重要な役割を担う一方、活性酸素などのストレスによりダメージを受けやすく、ダメージにより「不良ミトコンドリア」となります。不良ミトコンドリアの蓄積は細胞に悪影響を与え、パーキンソン病神経疾患やがんなど多くの疾患の原因となるため、どのようなときに不良ミトコンドリアが生じるのかを調べることが重要です。しかし、これまでは特定のストレスしか検出できない、限定的な方法しかなかったそうです。
パーキンソン病の原因遺伝子のひとつにPINK1遺伝子があります。PINK1タンパク質は健康な細胞では速やかに分解される一方、不良ミトコンドリアの外膜上では安定化して留まることがこれまでの研究によって明らかにされています。
この性質を利用し、研究グループはPINK1を不良ミトコンドリアのマーカーとして活用するため、PINK1とGFP(緑色蛍光タンパク質)、T2A(自切配列)、RFP(赤色蛍光タンパク質)、Omp25(ミトコンドリア外膜タンパク質)からなるMito-Pain(DNAベクター)を作製しました。
このMito-Painを細胞に導入すると、1つのmRNAからPINK1-GFPとRFP-Omp25タンパク質が等量ずつ産生され、RFP-Omp25はすべてのミトコンドリア膜上に局在する一方、PINK1-GFPは不良ミトコンドリアの膜上のみに安定して局在します。つまり健康なミトコンドリアはRFPのみ、不良ミトコンドリアはRFPとGFP両方を保持するため、黄色(赤と緑の混合色)の比率増加を不良ミトコンドリアの増加指標として定量解析可能になったといいます。また、蛍光顕微鏡観察を用いて、細胞内の一部の不良ミトコンドリアのみを観察することで、局所的なミトコンドリアストレスの解析も可能としています。
PINK1とパーキンソン病の原因遺伝子産物の「Parkinタンパク質」が一緒にはたらき、オートファジーを介して不良ミトコンドリアを分解除去(マイトファジー)することが分かっています。今回、Mito-Painによってミトコンドリアストレスを生じる様々な化合物を調べたところ、化合物の種類によってはPINK1だけでミトコンドリアストレスに応答する場合があることが判明。PINK1はマイトファジーだけでなく、単独でミトコンドリア修復にはたらく機能をもつことが示唆されました。
今回の研究成果について、板倉准教授はプレスリリースにて、「ミトコンドリアストレスを起因としてパーキンソン病神経疾患や癌、老化などが生じると考えられています。Mito-Painを利用してミトコンドリアストレスの詳細を解析することで、様々な疾患の発症要因の解明が進むと期待しています」と述べています。
出典元
千葉大学 プレスリリース