発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の経口治験薬Iptacopan(LNP023)、治療歴のない患者さんに対する単剤療法でベネフィット示す
ノバルティス ファーマ株式会社は7月2日、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の経口治験薬Iptacopan(開発コード:LNP023)に関する新たな第II相試験(NCT03896152)のデータを発表しました。この発表は、スイス・ノバルティス社が6月11日に発出したプレスリリースを日本語に翻訳・要約したもので、同データは第26回欧州血液学会(EHA 2021)でも発表されています。
血液疾患である発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)では、補体による溶血や血栓症、骨髄機能障害が特徴で、貧血、疲労など、患者さんの生活の質(QOL)に影響を及ぼすおそれのある消耗性の症状が起こります。現在、抗補体(C5)薬剤を用いた標準療法が行われていますが、PNH患者さんの大部分は依然として貧血に悩まされており、輸血に依存しています。
Iptacopanは、補体副経路のB因子を標的として阻害する経口治験薬剤。C5終末経路の上流で作用し、血管内だけでなく血管外でのPNHの溶血も予防するそうです。このため、PNHに関与する主要な生物学的作用の一部を標的とすることで、現在の標準治療を上回る治療上の利点があるのではないかと考えられています。
第II相試験(NCT03896152)は、活動性溶血があり、過去3ヵ月以内に補体阻害治療を受けていない成人PNH患者さんを対象に、Iptacopan単剤療法の有効性、安全性および薬物動態/薬力学を評価する、第II相、国際共同、多施設共同、非盲検、ランダム化、2コホート、用量設定治験。試験の主な目的は、最長で12週までの投与期間に乳酸脱水素酵素(LDH)値が60%低下するか、もしくはLDHが基準値上限(ULN)未満まで低下した患者さんの割合を評価するというものです。
今回発表されたデータでは、少なくとも12週間のIptacopan投与を完了したすべての患者さん(n=11)で、血管内溶血のバイオマーカーであるLDH値の少なくとも60%以上の低下という主要評価項目を達成。赤血球の輸血を1回受けた患者さん1名を除き、すべての患者さんが試験の12週間を通じて輸血フリーの状態を維持したそうです。また、溶血の他のバイオマーカーでも改善が認められ、PNH型赤血球の割合が著しく増加。これは、血管内と血管外の両方の溶血が全体として抑制されていることを示しているといいます。
投与期間中に重篤な有害事象や血栓塞栓事象は報告されず、同試験では予期しない安全上の結果は確認されませんでした。また、2名の患者さんは12週間の投与を完了する前にIptacopanの投与を中止しており、1例は非重篤な頭痛によるもの、もう1例は既往の好中球減少症の悪化により、医師の判断で中止したものとのこと。最も多く認められた有害事象は、頭痛(31%)、腹部不快感(15%)、血中アルカリホスファターゼの上昇(15%)、咳嗽(15%)、口腔咽頭痛(15%)、発熱(体温上昇、15%)、上気道感染(15%)でした。
韓国・成均館大学校医科大学の血液腫瘍学の教授で、同試験の筆頭著者であるJun Ho Jang教授はプレスリリースにて、「現在、標準治療である抗C5抗体療法の治療を受けているPNH患者さんの20~50%は、繰り返す血管外溶血のために依然として輸血に依存しており、さらに20~40%はさまざまな程度の貧血症状が残存します。これらの結果は、過去に抗C5抗体薬による治療歴のないPNH患者さんにおいて、Iptacopanの経口投与が血管内と血管外の両方の溶血をブロックすることを示すものです」と述べ、「以前の第II相試験の所見と併せて検討した場合、これらのデータは、Iptacopanが現在の標準治療法を超えた付加的なベネフィットを提供し、PNHの治療概念を変える可能性があることを示唆しています」としています。