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慢性腎疾患の病態進行に関わる新規メカニズムを解明

名古屋大学と九州大学を中心とする研究グループは、急性腎障害から慢性腎臓病への病態の進行に関与するメカニズムを解明したと発表しました。白血球の一種であるマクロファージに発現するMincle (macrophage-inducible C-type lectin) が病態メカニズムに関与していました。

背景-求められている急性腎障害の治療法開発

急性腎障害は急激に腎機能が悪化する障害です。多くの患者では腎機能が回復しますが、近年の研究では、腎臓にダメージが蓄積されており中長期的に見ると多くの患者が慢性腎臓病に移行することが明らかになりました。日本国内でも急性腎障害の発症頻度が徐々に高まっているにもかかわらず、慢性化のメカニズムは明らかになっておらず解明が待たれています。Mincleは白血球の一種であるマクロファージに発現する受容体として知られます。マクロファージの表面にあるMincleが体内に侵入した病原体を認識すると細胞内に情報が伝達され、炎症反応が引き起こされます。さらに過去の研究より、肥満により生じる脂肪組織の炎症反応においてMincleが重要な役割を持つことが明らかになっています。

結果-急性腎障害の病態におけるMincleの役割

本研究には急性腎障害のモデルマウスが用いられました。マウスは近位尿細管の壊死や血管障害により一過的に腎機能が低下しまが、症状は数時間から約1日をピークとして徐々に回復していきます。喪失した近位尿細管は十分に再生されず腎臓が萎縮していきます。遺伝子改変により体内でMincleが作れないようにされたマウスは、対照のマウスと比較して腎障害後に生存が見られました。対照マウスは腎障害後6日目までに約半数が死亡しました。さらなる観察の結果、Mincleは腎障害後の急性期ではなく修復期から慢性期における炎症反応に関わっていました。また、組織学的な観察を行った結果Mincleが発現しているマクロファージは、細胞死が起こっている近位尿細管の付近に集まっていました。げん

展望-慢性腎臓病の新規治療法開発にも期待

現在までに病態メカニズムに基づいた急性腎障害の治療法は開発されていません。急性腎障害はその名の通り急速に進行するため発症初期に治療を行うことは困難です。また急性腎障害から慢性腎臓病への移行メカニズムも明らかになっておらず十分な治療が行えませんでした。本研究により修復期から慢性期のMincleを標的とした治療法の開発が有効である可能性が示唆されました。さらに本研究により、急性腎臓病の予後を予想し得るバイオマーカーも同定されました。今後さらにMincleの働きが解明されることで、より適切な急性腎障害の治療に繋がると期待されています。

出典元
名古屋大学 研究成果情報

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