パーキンソン病の病因タンパク質の凝集観察に成功
金沢大学ナノ生命科学研究所をはじめとする研究グループはパーキンソン病を引き起こす原因と考えられている、αシヌクレインと呼ばれるタンパク質が凝集していく過程を世界で初めて観察しました。 今回の研究結果は、アルツハイマー病や2型糖尿病などの他のアミロイド線維によって引き起こされる疾患の発症メカニズムの解明にも役立てられると期待されています。
背景-パーキンソン病を引き起こす異常なタンパク質のかたまり
パーキンソン病は脳内で特定の神経細胞が破壊され、数が少なくなることで発症すると考えられています。特にパーキンソン病患者の脳内では、レビー小体と呼ばれる、不要なタンパク質のかたまりが観察される特徴があります。レビー小体は、主に誤った形で産生されたαシヌクレインが集まって形成されると考えられています。αシヌクレインを形作るアミノ酸の配列や立体構造は複数の種類が知られており、αシヌクレイン周囲のpH環境などによって様々な変異型が形成されます。さらに、異常な形で産生されたαシヌクレインは、他の形のαシヌクレインも巻き込んで、自分と同じ形のαシヌクレインへと誘導し、伸長 (凝集) していくことが明らかになっています。しかし、どのように異常なαシヌクレインが形成され、また、レビー小体へと凝集していくかは明らかになっていませんでした。
結果と展望-αシヌクレイン凝集過程の直接観察に成功
研究グループは高速原子間力顕微鏡を用いてαシヌクレインの凝集を観察しました。原子間力顕微鏡はナノメートル単位のものの動きを観察できる顕微鏡です。正常なαシヌクレイン、家族性パーキンソン病患者でみられるαシヌクレインをそれぞれ異なるpH環境に置き、同じ、または異なるpH環境で形成されたαシヌクレインと結合させ、その様子を観察しました。観察の結果、自分と同じ環境で形作られたαシヌクレイン同士が結合するときに比べて、異なる環境で形成されたαシヌクレインと結合するときは、伸長する速度が速くなったり、あるいは遅くなったり、全く伸長しなかったりと様々な振る舞いを取ることが明らかになりました。αシヌクレインの凝集したレビー小体はアミロイド線維とも呼ばれます。アルツハイマー病や2型糖尿病などの、他のアミロイド線維によって引き起こされる疾患の発症メカニズムの解明にも今回の研究結果が役立てられることが期待されます。
出典元
金沢大学 研究トピック