ヒトiPS細胞より末梢神経の再生に成功
京都大学iPS細胞研究所 CiRAはヒトiPS細胞から培養した間葉系幹細胞をもとに、バイオ3Dプリンターを使って神経の作成に成功したことを発表しました。神経導管は神経細胞において、軸索の伸長を促す際に必要な構造体です。今回作成した神経導管は内側と外側どちらにも新たな血管の形成が確認されたため、将来的には新たな血管を介して生体内の末梢神経の再生にも繋がる可能性が示されました。
背景-求められる神経線維移植の課題解決
外傷や手術などによる末梢神経損傷の治療にはしばしば切断端の縫合が試みられますが、縫合不可能な場合には自分自身の神経を移植する手法が用いられます。しかし自身の神経を移植する際には、採取部位の感染リスクや、限りある供給量などまだまだ課題が残っています。他人の神経や人工神経の移植も行われていますが、周術期の免疫抑制や生体への適合性といった課題が残っています。こうした課題を解決するために、研究グループはバイオ3Dプリンターを活用した手技の開発を進めました。過去に報告された人工神経導管の細胞材料として成人の皮膚線維芽細胞を利用していましたが、成人の線維芽細胞はドナーごとに品質が異なるため安定した品質管理が困難でした。そこで本研究では安定した品質のiPS細胞を活用し、間葉系幹細胞 (iMSC) を誘導し神経導管を作製しました。iMSCは免疫調整分子の分泌、エキソソームの分泌、損傷組織の修復が期待されます。
結果-iPS細胞を用いた神経作製の有効性確認
研究グループはiMSCから細胞シートを培養し、細胞シートから塊状のiMSC (C-iMSC) を作製しました。こうして作成したC-iMSCを、3Dプリンターを用いて剣山のような足場に組み上げていくことで管状の構造 (バイオ3D神経導管) に培養したところ、細胞同士の足場となる細胞外マトリックスの存在が確認されました。さらにこれらの組織の遺伝子発現パターンは骨髄由来の間葉系幹細胞に類似していることが明らかになりました。さらに、作成したバイオ3D神経導管を坐骨神経切断モデルラットへ移植しました。肉眼的観察により移植8週間後も形状の維持が確認され、さらに表層部には血管新生も確認されました。 バイオ3D神経導管移植群は対照群であるシリコンチューブ移植群に対し、筋委縮が少なかったため、回復の初期段階から筋肉が神経支配を受けていることが示唆されました。また、実際に組織学的な染色による観察を行ったところバイオ3D神経導管移植群は有髄軸索を持つことが明らかになり、ミエリンが厚く、シリコンチューブを移植したラットと比べて有髄軸索の量と質の両方の点で優れていることが示されました。