細菌による血管新生因子を発見
藤田医科大学をはじめとする研究グループは2020年7月16日、バルトネラ属に含まれる2種類の病原菌に由来する血管新生因子を世界で初めて発見したと発表しました。血管新生は、ある血管をもとにそこから新しい血管が形成される生理的現象です。こうした研究が重ねられることで、虚血性疾患の治療薬創薬や再生医療の分野での応用も期待されます。
細菌により引き起こされる宿主の血管新生
バルトネラ属に分類される細菌はこれまでに30種類以上見つかっています。このうちバルトネラ・ヘンセレは「猫ひっかき病」の原因菌として、バルトネラ・クインタナは「塹壕熱」の原因菌として知られます。これらの菌が免疫不全のヒトに感染すると、皮膚や様々な臓器に血液の充満した袋の様な組織を形成する「細菌性血管腫」を引き起こします。この際に、血管内皮細胞の分裂を促すことで毛細血管が増えることが明らかになっており、感染により血管新生を促す性質はバルトネラ属に特徴的なものです。バルトネラ属の細菌が細胞の増殖を促す因子を作り出しているメカニズムがあると古くから予想されていましたが、その詳細はこれまで明らかになっていませんでした。
細菌由来の血管新生因子を世界で初めて特定
研究チームは「バルトネラ属の細菌が細胞の増殖を促す因子」を特定するために、バルトネラ・ヘンセレの遺伝子にランダムな変異を起こして、その影響を調べました。その結果、ある特定の遺伝子に変異が起こると細胞の増殖を促さないことを見つけ、この遺伝子より作られるタンパク質をBartonella angiogenic factor A (BafA) と名付けました。さらに細菌より分泌されたBafAは細胞増殖を直接的に促進し、マウスにおいて血管新生を引き起こすことが明らかになりました。これらの作用は血管内皮細胞のVascular Endothelial Growth Factor (VEGF) を介したMAPK-ERK経路の活性化により引き起こされます。バルトネラ・クインタナからも同様のタンパク質が見つかっています。こうしたメカニズムが更に明らかになることで、再生医療の分野で、3次元の組織や人工の臓器を構築する際に血管ネットワークの効率的な形成に役立てられる可能性があります。