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ふあんていへもぐろびんしょう
不安定ヘモグロビン症Unstable haemoglobin disease

小児慢性疾患分類

疾患群9
血液疾患
大分類8
遺伝性溶血性貧血
細分類14
不安定ヘモグロビン症

病気・治療解説

概念

ヒトヘモグロビン(血色素、Hb)は141個のアミノ酸を持つαグロビンと146個のアミノ酸を持つ非αグロビンの各2分子からなる四量体である。各グロビンのサブユニットの疎水性ポケットには1個のヘムが結合しており、Hbは計4個のヘムを持っている。本症はこのHbの量的・質的異常に起因する遺伝性疾患である。Hb異常症のうちHbの量的異常をサラセミアといい、質的異常を異常Hb症という。
サラセミアはグロビンのα鎖、非α鎖の合成欠損による無効造血から小球性低色素性貧血を呈する疾患群である。α鎖異常によるものをαサラセミア、β鎖異常によるものをβサラセミアという。Hbの質的異常である異常Hb症で最も頻度の高い不安定Hb症は、Hb分子の不安定性から軽度から超不安定なものまで幅広く存在する。安定型の異常Hb含量は正常Hbと同等であるが、不安定度が増すほど変性が早くなり、含量が減る。その中でも、鎌状赤血球症(HbS症)は末梢血の赤血球形態が鎌状を示す異常Hb症である。HbS症はHbAのサブユニットであるβグロビン遺伝子の6番目のグルタミン酸がバリンに置換された結果生じる。

疫学

日本人におけるサラセミアの頻度はβサラセミアで1/1,000人、αサラセミアで1/3,500人程度である。ともに軽症型であるため、溶血性貧血の割合は少なく、特にβサラセミアでは全体の6%にしか見られない。サラセミアは、一般に臨床所見や日常検査で、鉄不応性の小球性赤血球症として発見されることが多い。一方、異常Hb症は日本人の約3,000人に1人の割合で存在する。Hbを構成するアミノ酸のどこの部分にも置換が起こりうるため、相当数の異常Hbの存在が予想される。現在知られている日本の異常Hbは210種類以上(世界的には800種類以上)に及ぶ。日本では10種類の変異体が多く発見されている。

原因

Hb異常症のほとんどは遺伝性疾患で、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライシング変異や数塩基から広範囲な遺伝子欠失などによる遺伝子異常により生じる。

症状

重症型サラセミアでは、不均衡なHb産生が赤血球膜障害を招き溶血性貧血を起こす。日本人に最も多く見られるサラセミアは軽症型であり溶血症状は少ない。一般に小球性低色素性貧血を示す。ただし、妊娠や感染症の合併で一過性に貧血症状が増悪する場合もあるため注意が必要である。日本人異常Hb症の約70%は機能的に問題のない無症候性バリアントである。HbA1c測定中に異常パターンや異常値から偶然発見されることが多い。患者の症候は、不安定Hbによる溶血性貧血(17.9%)、高酸素親和性Hbによる多血症(10.2%)、低酸素親和性Hbによるチアノーゼ(3.8%)、サラセミア様症状(2.5%)、HbSによる鎌状赤血球症(0.3%, 日本人にはない)がある。

治療

サラセミアで問題となるのは、重症型である。骨髄移植は根治療法となるが、主に保存的治療(輸血+鉄キレート療法)が行われる。最近は経口除鉄剤が開発され、患者の精神的、身体的負担が軽減されつつある。一方、重症型サラセミア発生の予防が近年進歩した。βサラセミアのホモ接合体、複合ヘテロ接合体の出生を避けるために、地中海沿岸諸国では患者教育とヘテロ接合体スクリーニングが行われている。日本人に多い軽症型サラセミアの場合、基本的に治療は必要ない。不必要な鉄剤投与などを避け、妊娠や感染症などの要因で一過性に貧血増悪が引き起こされる事実を認識・把握するため、教育やカウンセリングが必要である。異常Hb症も軽症であれば治療を要しないが、重度の溶血が見られる場合(ドミナント型など)には輸血を必要とし、脾摘を行う場合もある。

予後

軽症例の予後は良い。重症例では早期から計画的な輸血が必要であるが、高度の貧血を放置すると肝脾腫、発育遅延、骨の変形など高度な慢性消耗状態となる。適切な輸血、鉄過剰を防ぐための鉄キレート剤の投与を行えば、予後はかなり改善されたが自然経過であれば20年~30年で死亡する。

参考文献

1) Disorders of Hemoglobin,2001 Steinberg et al.
2) 別冊日本臨床 血液症候群(第2版) 2013
3) 稀少疾患 疾患概要 Ophanet

小児慢性特定疾患情報センターhttps://www.shouman.jp/より、許可をいただき掲載しております。

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