IgA腎症の病態に関わるタンパク質CFHR1を特定、新たな治療標的の可能性を示唆
藤田医科大学は12月10日、IgA腎症の病態に関わる重要なタンパク質を特定したと発表しました。
IgA腎症(指定難病66)は、日本を含むアジア地域で多く見られる腎炎の一種です。血液中に形成される免疫グロブリンA(IgA)を含む免疫複合体という物質が、腎臓のろ過機能を担う糸球体に沈着して炎症を引き起こします。初期には自覚症状がほとんどなく、健康診断などで血尿や蛋白尿を指摘されて見つかることが多いですが、適切な治療を受けないと腎不全へと進行する疾患です。
これまで、血液中の病的なIgA免疫複合体や、免疫反応を助ける「補体系」と呼ばれるタンパク質群が病気に関わっていると考えられてきましたが、具体的な分子レベルでのメカニズムや、血液中と腎臓内で共通して働く物質については十分に解明されていませんでした。
今回、研究グループは、IgA腎症患者さんの血液から分離したIgA免疫複合体と、腎生検によって得られた糸球体組織に含まれるタンパク質を、高感度な質量分析計を用いて網羅的に解析。その結果、IgA腎症患者さんでは、補体系タンパク質、とくに「補体H因子関連タンパク質1(CFHR1)」が、血液中のIgA免疫複合体と腎臓の糸球体の両方に共通して豊富に含まれていることを世界で初めて発見しました。
さらに、扁桃摘出術とステロイドパルス療法を組み合わせた免疫抑制療法を受けた患者さんにおいて、治療前後の変化を調べました。すると、治療後には血液中のIgA免疫複合体に含まれるCFHR1の量が顕著に減少していることが確認されました。この結果は、CFHR1の量が治療の効果や病気の活動性と関連している可能性を示しています。

以上の研究成果より、IgA腎症の病態に関与するタンパク質が可視化されました。研究グループは、CFHR1をはじめとする補体系調節因子が、活動性のあるIgA腎症を診断するためのバイオマーカーや、新たな治療薬の標的となる可能性があると考えられるとしています。今後は、より多くの患者さんを対象とした検証や測定法の確立が進められ、診断や治療への応用が期待されます。
なお、同研究の成果は、学術誌「Scientific Reports」オンライン版に11月26日付で掲載されました。
