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筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)に関わる異常なタンパク質合成の制御メカニズムを解明

東京科学大学は10月31日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)といった神経変性疾患に関わる異常なタンパク質合成の制御メカニズムを解明したと発表しました。

筋萎縮性側索硬化症(指定難病2、ALS)は、運動神経が変性して全身の筋肉が急速に衰える難病で、前頭側頭型認知症(FTD)はアルツハイマー型認知症などに次いで多い認知症です。これらの疾患では、C9orf72遺伝子内に特定の塩基配列(GGGGCC)が異常に繰り返されていることが高頻度で検出されていました。この繰り返し配列を持つRNAから、通常の翻訳開始機構に依らない「RAN翻訳」と呼ばれる異常なタンパク質合成が発生することが知られています。RAN翻訳で合成されるタンパク質は細胞毒性を持っており、神経細胞の機能障害や細胞死を誘発するため、病態との関連が示唆されていました。

画像はリリースより

今回、研究チームは、以前に同グループが確立した「ヒト因子由来再構成型翻訳システム(human PURE)」を用いた試験管内解析と、ヒト細胞を用いた実験を組み合わせることで、分子機構の解析を進めました。その結果、翻訳開始因子eIF1AとeIF5Bが、RAN翻訳の開始効率を抑制する因子であることを発見しました。特定の翻訳因子を欠損させた無細胞系で解析を行ったところ、eIF1AあるいはeIF5Bを欠損させた場合にRAN翻訳が大きく促進されることが明らかになりました。さらに、これらの因子を同時に欠損させると促進効果がより強力になったことから、eIF1AとeIF5Bがそれぞれ異なる作用機序によってRAN翻訳を制御していることが示されました。これらの因子は、通常の翻訳開始コドン(AUG)ではない部位(Non-AUGコドン)から翻訳が始まることを抑制する役割を持っています。また、細胞がストレスにさらされた際に活性化する防御システムである「統合的ストレス応答(ISR)」において、eIF1AがRAN翻訳の促進に関与することも突き止められました。

画像はリリースより

以上の研究成果より、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)の病態に深く関わるRAN翻訳が、通常の翻訳開始因子によって調節されていることが明らかになりました。これまで「曖昧な分子機構」とされてきたRAN翻訳の詳細を解明したことは、基礎研究からの病態解明という点で大きな意義を持ちます。この知見は、患者さんに蓄積する毒性タンパク質(ジペプチドリピート)の産生を抑える新しい治療戦略の基盤となりうるものであり、創薬標的として翻訳因子を利用する可能性を提示しています。今後は、これらの翻訳因子の働きを調節する化合物や核酸医薬の開発を通じて、RAN翻訳を抑制する新規治療薬につながることが期待されます。

なお、同研究の成果は、「Nucleic Acids Research」に10月10日付で掲載されました。

出典
東京科学大学 プレスリリース

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